同じ目的を持つ者同士
出鱈目で辛めで粗めな荒療治
By Jube from Think Tank
1.
インターホンが鳴った。ハイハイ分かりました、行きますよ。
「話聞かせて貰いたいんだけど。」
「えぇ、えぇ、ずっと誰かに話したかったんすよ。」
乗り込んだ車の中で「刑事さん、俺やっと自由になれますわ。」って。
「アホか、自由とは真逆じゃ。」
俺の女はツラは酷かったが、体が良すぎた。17歳。パッツパツの肉にぶち込むのはあまりにも気持ち良すぎたし、おまけに金に困れば働きに出てくれた。
ただ、余りにも性格に難がありすぎた。
犬の散歩みたいに手錠からロープが出てて、男の腹に巻かれてる。惨めな気分だ。俺は上手く現実を受け入れられず、階段でふらついて叱られた。
指紋を採って着替えさせられ、俺の住んでる部屋と大して変わらないくらいの大きさの部屋にぶち込まれた。悪くない、が、余りにも退屈すぎる。
ザラついた感触の毛布、ひんやりした畳、独特の大理石みたいな、腐敗した正義の香りの中、横になる。
俺は何も考えたくなかった。水を飲み込み、喉に指を突っ込み、音を立てずにゲロを吐いて、オナニーして取り敢えず無理矢理眠った。
まずは尿検査だった。見張られながらションベン、運良くガンジャは1ヶ月くらい抜いてたから絶対に大丈夫だってのに、ビクビクしながら結果を待った。結果は教えて貰えなかった。
クソッタレ、ケツアナの皺の数を聞かれてるみたいな気分だ。
「風呂に沈められて殺されかけた、って言ってるようなんだけど。」
「頭真っ白で何の記憶も無いっすね。彼女の被害妄想では?あっ、今なんて書きました?」
調書を片っ端から検閲仕返してやった。少しでも表現が気に食わなければ全て書き直しさせ続けた。これっぽっちも話が進まず、とにかく刑事をウンザリさせ続けてやった。
通ってた医者の処方で、合法的にクスリを手に入れられる。運悪くこの時は真面目に医者に通ってたせいで、ちょっと眠くなるだけのヤツだったが、まぁ、無いよりはマシだった。口に入れられ、水で流すところを見られるのは少し照れた。
飯はクソ不味かったから、俺は味噌汁と米以外には決して手をつけなかった。冷たい廊下、永遠に近い待ち時間。あー、もう懲りましたよ。しばらく悪いことしねーからとっとと出してくれよって、岩山の孫悟空みたいな気分になってくる。ラジオから流れるウルフルズ。「とにかく笑えれば、」全然笑えなさすぎて、逆に笑えてくる。ノートに「分からん、分からん、分からんらん、」って書いてると、少しクスリが効いてきた。
「猫に餌と水をあげたいんすけど、どーしたらいいすかね?」
「お前の猫、死んでるわとっくに。アハハ。」
クソバビロンMotherfucker!こんなコトを笑いながら抜かせるヤツらが正義なんだもんな、笑える。
弁護士に会って、取り敢えず「学業に支障が出る。」でゴリ押しさせる。
ま、もう7月だってのに、今年になってまだ数回しか学校に行ってないんだがな。
取り敢えず無事、4日で釈放が決まった。20日もパクられっぱなしのヤツらはバカだ。初めてにしては上出来だろ?
カーキ色の草臥びれたスーツを着た刑事が俺の隣りに座って、ジャージのオトコが運転席に座った。
「はぁ、ツイテナイ。ガム踏んで気持ち悪くてな。靴、新品やで?ホンマ、最悪や。」
「俺に比べたらマシですよ。」
「そうやな、お前は今回ホンマ、運が悪かった。」
「ま、接触禁止命令勝ち取れたんで。あの女と別れるにはこれしか方法無かったんすわ。あの、コンビニ寄れます?」
「あぁ、タバコか?」
「そう。」
「久し振りやろ?倒れんなよ?」
「すんません、聴きたい曲あるんすけど、ユーチューブ見せて貰えます?ずっと聞きたかったんすわ。」
ジャージマンからケータイを借りて、ピーズのいきのばしを流した。
「これは良い曲やな。うん。」ジャージマンがそう言って、みんなで黙ってピーズを聞きながらしばらく車に揺られていた。
セブイレついて、わかばとライター買って、思いっ切り吸い込んだ。倒れそうになりながら久々の実家、久々の母親、カーキが俺の肩を叩き、
「もう帰ってくんなよ!!」
「あざっす。」
クソバビロン共の中にも、イイヤツは居る。
「ヨージ、パクられたわ。」
「お疲れ。20日?」
「4日で解放。実家で過ごすことが条件やって。引っ越し頼める?」
「ええよ、軽トラで積める?」
「全然積める。」
階段を降りて、先ず第一声、
「真っ当に生きるわ。髪の毛切りたいからお金ちょうだい。」
ゲームオーバー。もう、コンティニューする気にもなれない。
「もう、バッサリ切っちゃって。」
「えー、なんで切るんですかー?」
「なんかね、真っ当に生きてみようかなって。」
「いいですか?切りますよ?」
バッサリ、あっさり、さみしくなった。寂しさを埋めるために、日本橋の黒いBoxの中に入って、写真を指差した。
「この子。」
「では、番号札でお呼びしますんで。」
同じ目的の他の客との沈黙が満たす待合室の中、俺はタバコを吸いながら待った。
「髪の毛切ったんよ。」
「なんで切ったの?」
「女殴って、パクられて。」
「うわっ、サイテー!」
ベッドの上でパンストを脱ぎ始める。なんて、なんてイイ女なんだ。30歳なのが信じられない。
大体こんな女がこの値段で来ることなんか、あり得ない。一体どうなってんだ?風呂に一緒に入るとすぐに理由が分かった。俺はその理由に触れた。タトゥーだ。
彼女の体で泡立てて、抱き締め合ってると、スッゲーぼんやりしてきた。
風呂から上がって、ベッドにぼっさり寝転がってタバコを吸う。Yes, I’m Lonely, Wanna Dieって気分だ。隣に女が来る。腕を差し出して抱き締める。
「君みたいな、女殴るような酷いオトコばっかり好きになってきたわ。」
「なぁ、俺、ハマッちゃいそう。」
「アタシ、ハマッてる。抱きついてるだけで気持ちいいモン。」
「いっつもこうやって色恋営業に持ちかけてるワケですか。」
キスして、舌を絡め合って、まさぐりあった。すっげー濡れてて、柔らかくて、キツくて、サイコーだった。
病んだ女が吸う、匂いのキツいタバコを1本貰って、二人で黙って吸った。
「ホントに働く気あるんですか?」
「あります。」
「だったら、面接にビーチサンダルはあり得ないよ。履歴書に写真も貼ってない。」
「お金全くなくて。取り敢えずスニーカーは始業までになんとかするんで。」
将来の夢を聞かれて、作家、って答えたのが功を奏し、コンビニのレジ打ちに無事採用された。店長が元々本屋で働いてたおかげだ。
母親にスニーカーを買って貰い、実家の近くのコンビニで、毎日5時から9時の4時間のシフトだった。
「今日さ、長居店で仕事って言われてたから、余裕持って向かったら「何で来たの?」って。どうやら向こうの伝え間違い。謝り一つナシでさ、気分悪いわ。」
「そんなん、どうせお前が悪いねん。」
「何がやねんな。向こうの伝え間違いやって言うてるやろ。」
「お母さんの方がもっともっと大変やわ。お前が悪いねん、お前が。のんちゃんの時だって、別れんかったら良かったのに。どうせお前が、」
「もういい、もういいわ。」
階段を登って猫の居る自分の部屋に戻り、ジンロを飲みながら先輩に電話した。
「実家キツいっすわ。」
「なんで実家帰ったん?」
「いや、パクられて。」
「終わりやな、終わり。パクられた?ゲームオーバーやん。女殴るのだけは辞めとけって、俺散々言うたやろ。」
「もういいっすわ。」
制服を着て、母親に買って貰っただっせえスニーカーを履き、Tik Tokの話で盛り上がってる同僚とは一切口を利くことなく、俺は真面目に、真っ当に、働いていた。
「アナタたち!喋ってばっかりで、新人君だけやないの、きちんと働いてるのは!」
なんてクレームが入るぐらい真面目にやってたのに、どうしてか俺は店長に呼び出された。
「・・・あのねぇ、昨日事務所でお弁当食べたでしょ。」
「家に帰って食べたかったんですけど、ここで食べて帰ったら?って、買ったのをあっためられたんで、仕方なく食いましたよ。」
「食べちゃダメなんだよ。あのね、君、仕事覚える気、ある?」
「少なくともクレームが入らないぐらいには。」
「あのね、クビ。」
「はぁ?」
「ま、せいぜい作家になるって夢だけは諦めないでくださいよ。」
無遅刻無欠勤だぜ?Noクレームだぜ?Tik Tokの話が出来ねーからって、余りにも理不尽だ。
俺は4日でコンビニをクビになった。
引き払う予定のアパートに逃げ帰った。全く何もない部屋の中で太陽を浴びて寝転んでると、ふと、もういいんじゃないか?って気になってきた。
酔っ払いながらタイパンツのヒモを首に括り付けて、思いっ切り引っ張った。首が絞まった。息が止まった。
40秒くらい、ぼんやりと気持ち良くなってきた。あー、俺、今だったら死ぬの怖くねーわ、縄でも買いに行って首吊るか、それとも飛び降りるか、って考えてると、
「ヘッ、もったいな。」
って聞こえた。
それは、自分の声だった。
「何がもったいないねん?」
返事は無かった。
取り敢えず俺は、何がもったいないのかが分かるまで、生きてみることにした。
「2週間しか経ってないのに、すまんな。」
「こうなることは分かってたから別に、でもな、もうこれっきりな。」
ヨージの軽トラに荷物を詰め込んで、警察の命令なんてガン無視で、俺は西今川の俺のアパートに戻ることにした。
実家には耐えられない。タバコを吸う度に外に出るコト、音楽が聴けないコトは別に特段、気にならない。
あの沈黙。俺がパクられたコトが、無かったコトにされてるあの感じに俺は、草臥れきっていた。
「なぁ、そっち行って良い?」
「ん、いいよ。」
抱き締めてキスすると、さっき食ったふぐ鍋のもみじおろしの匂いがして、吐きそうになった。脱がそうとすると、
「生理。」
「じゃ、生で出来るやん。」
「あのね、アタシ、はぁ、彼氏出来たばっかりなんだよ、3日前に。生理だから絶対大丈夫、って、だから君のコト泊めたのに。」
鬱病の薬を飲んでる女は、どいつもこいつも独特の太り方をしてるからすぐに分かる。肉が、固い。ネグリジェを脱がし、前戯をテキトーに済ませて、血でぬるぬるした部分に突っ込んだ。
前付き合ってた女の痩せて引き締まった若い肌に比べて、30歳のババアの皮膚は、どう考えてもサイテーだった。
終わる度に女が舐めて、俺のについた血をキレイにしてくれた。そんなコトされちゃたまんない。結局、朝まで4回もヤッちまった。
「で、今は、猫ちゃんを飼ってるってわけ。」
「猫?オトコじゃなくて?」
「そ、オスの野良猫。」
笑っちまいそうになりながら、ベランダに出てタバコを吸う。
この家に来る他の男が忘れてって、この家に来る他の男が着たであろうパジャマ姿でベランダに出て、タバコを吸って、しばらく待つ。
「電話してたの、誰?」
「友達。」
「そいつと、寝たことある?」
「昔ね。」
穴兄弟の声なんか朝っぱらから聞かせんなよ、気持ちわりい。ウォータークーラーで水を汲んで飲みながら、ハムスターがエサ食ってんのを眺めて、もっかいベランダに出て、一服する。枯れた観葉植物と、灰皿の中の、銘柄の違うフィルターを眺めて笑う。
仕事に出掛けた女の部屋で思う。何が真っ当にやり直す、だ?笑えてくる。結局俺はまた同じコトを繰り返し続けてる。大阪からわざわざ千葉まで逃げてきてんのに、太った女に飼われてちゃ何の世話も無い。何かに期待して死ぬことすら出来ないクセに、それならそうと腹キメて頑張ることも出来ない。
途方もなく長い夜の10時までを何とか耐えて、仕事帰りの女を駅まで迎えに行く。24時間営業のスーパーに入って、食いたいモノ、飲みたいモノを買って貰う。
味噌汁、魚のフライ、サラダ、雑穀米、俺はいい加減にゲンナリしてくる。味は美味いが愛がクドい。
「こういう飯、マジでキツいわ。」
「愛されんのが嫌いなの?猫ちゃん。」
「猫って呼び方辞めろよ。」
「ずっと酷いコトされてきたんだよ、付き合ってきた女の子達に。」
「酷いコトしてきたのは、俺の方。」
「ねぇ、歯磨きしたげよっか。」
口の中に歯ブラシを突っ込まれて、俺は吐きそうになる。
「オエッ。こんなワケの分からん白い化学製品なんか、良く口ん中入れれるよな。」
「ヨシヨシ、頑張ったね。」
「お前の方が頑張ってるわ、仕事して。なぁ、休みいつ?」
「明後日。なんで?」
「デートしよう。」
そう言って俺は服を脱がして、前戯も関係無しにぶち込んだ。
「やっぱり猫ちゃんは、猫ちゃん。だって、エッチがケモノみたい。」
ケモノは終わった後一人でタバコなんか吸わねーよ。
「閉まってんな、これは。」
「閉まってるね。せっかく渋谷来たのにね。」
俺は愕然とした。侍が食える、それだけを楽しみに渋谷まで来たのに、閉まっていた。仕方なく近くにあった家系に入ったけど、食ってる途中に二人で見つめ合って、黙って笑って外に出るようなサイテーな代物だった。
原宿まで歩く道のりにある古着屋に片っ端から入ってみるけど、全然乗らない、面倒臭いだけ。
ちょっと休憩、って立ち寄った喫茶店っつーか、小綺麗な店で、ワケの分からない1200円ぐらいするパフェを奢って貰ってから、女が服を買うのについていった。
30超えた太った女のワンピースなんて、右でも左でもどっちでもいい。俺はずっと椅子に座って下を向いて頭を抱えていた。
渋谷に戻って入った居酒屋、これが見事にハズれの酷い、サイテーの店で、俺達は妙に酸っぱいもんじゃ焼きを食って、二人で殆ど睨み合った。
「今日は、ダメな日だな。俺が選んだ店、ことごとくサイテーだわ。」
「アタシは楽しいよ、10年ぶりくらいにデートして。何年もセックスばっかりだったから。」
「痩せろ、イイ女なんだから。」
「クスリ飲み始めてから太り出しちゃって。」
「言い訳、言い訳。このまんまでイイワケ?お前、イイ女やねんからさ、」
都合の、な。
「だったら、だったらキスして下さいよ!」
ハイボールをしこたま飲んだ女の一言で、地下鉄中の全員がコッチに振り向いた。
「アホ、お前が俺に言うたら周りのヤツら、ママ活してるようにしか見えへんぞ。年を考えろ、年を。」
起きてまずは服を着た。いびきかいて寝てる女はほったらかしにしといて、フライパンをあっため始めた。
鯖缶を開けて、ハーブを何種類か振りかけて、岩塩が無いから塩と黒コショウ、それからオリーブオイルと大量のチーズをぶっかけて、ぐちゃぐちゃに混ぜておく。オリーブオイルでニンニクを炒めて、トマト缶突っ込んで、ほうれん草煮込んで、さっき用意した鯖を入れて、味見する。うん、良い感じだ。
火を止めて、お湯をウォータークーラーから運んできて、塩を入れて、パスタを入れて、タイマーセットしてから、俺は女を起こした。
「ん、いいにおい。」
「飯出来たぞ。」
軽く湯切りして、ソースにぶち込んで、混ぜながら温めて、さっき用意しておいた皿に載っけて、粉チーズと鷹の爪をふりかけてテーブルに持ってくと、女が水を汲んでくれている。
「ほんっとに美味しい。これ、作り方教えて。」
「カナダでプッシャーしてたツレが、イタリア料理店で働いてて、その時に作ってたパスタやって。」
「プッシャーって何?」
「ドラッグ売ってたの。」
「ダメだよ、ドラッグは。」
「んじゃ、不特定多数の男と年に100回寝ちゃうのもダメだよ。」
「帰りたいなら帰れば?あっ、コレ、君の好きなジョゼのセリフだっけ?」
「ふざけんなよ、お前にジョゼが分かってたまるかよ。それにセリフは、帰れ、帰る言うてほんまに帰る様なヤツは帰れ、や。」
「君はね、真剣に生きすぎなんだよ。もっとテキトーに、リラックスして、ご飯食べさせて貰ってればいいの。」
「わーった、帰るわ、帰る。俺は一人で生きてける。」
「君は野良猫だから無理だよ、誰かに飼われないと。」
「もういい、もういい、気分悪い、なぁ、飯食いに行こうぜ。」
セックスして、喧嘩して、またセックスして、また喧嘩してたらいつの間にか朝になっていた。
誰も居ない真っ白な街中を二人でふらついて、朝っぱらから牛丼を食った。
「じゃあな。」
「君のことだけは、絶対に忘れないよ。君、本当に、死んじゃいそうだよ。ねぇ、もっとテキトーに、」
「テキトーに、クスリでもやるよ。」
「しっと、俺、キッツいわぁ。」
「俺だってキツいわ。パクられてきたばっかやぞ。」
「親父がよー、キッツいねん、お前は良いよな、一人暮らしで。」
「じゃあお前も引っ越せよ。お前、人の話聞いてる?俺だってキツいって、俺の話も聞けよ。」
「金貯めてたけど、サークルの飲み会で飛んで、はぁ、」
「なぁ、オイ、もういいよ。」
マイキーは、かれこれ4時間も昔話をし続けてる。あの時LSD8枚食って、だの、指詰めようとして包丁を押し当てたけど、やっぱり俺には出来なかっただの、もう聞き飽きた、聞き飽きた、うんざりだ。
「そんな昔話するならよ、昔みたいに無茶苦茶しようぜ。俺今から、自転車で京都行ったるわ。」
「90キロも離れてんねんぞ?」
隣が急斜面の丘になってて、落ちたら終わりだ。当たりは真っ暗、少しでもスピードを緩めたら跳ねられちまう。走る車のライトだけを頼りに必死にママチャリを漕いでる俺を、ロードバイクに乗ってるマイキーが笑いながら写真に撮った。
「ケタケタケタ、イカレてる!ママチャリで大阪から京都は頭オカシイって。」
「なぁ俺ら、いつまで無茶し続ける年や?もう俺、半年ちょいで社会人や。」
「俺は、2留してるから。お前、卒業出来そうなん?」
「偽装の診断書で楽勝。」
クッタクタのヘッロヘロの意識モーローになりながら、8時間ぐらい自転車を漕ぎ続けて、俺たちは何とか京都に辿り着き、ネカフェで少しだけ仮眠を取って、体がギシギシいってるのをなんとか少しだけマシにしようと、京都タワー下の風呂に入った。
清水寺をぶらついてから新京極で、俺はビール、マイキーはウイスキーを片手に、酔っ払ったテンションで買ったハッピ姿で、女に声を掛け始めた。キャー!って叫びながら逃げられて、俺達は一旦色々と考え直すために、コンビニの前でタバコを吸い始めた。
マイキーがトイレに行ってる間、俺は地面を見続けた。たまらなくこれ以上もなく本当に心底から家に帰りたい、が、自転車で来てるからそんなことは不可能だった。
俺は、肩を叩かれた。
「初めまして。お兄さん、ヤバいらしいっすね。」
「オイ、マイキー、誰コイツ?」
「便所で話しかけてな、」
リュウそっくりのツラしたヤツだったが、リュウとは似ても似つかないほどクソつまらねーヤツだった。
「なぁ、マイキー、お前、いつまで引き摺ってんだよ?あの頃は楽しかった、あの頃は楽しかったって、俺らもうすぐ、22になんだぜ?18の頃みたいには出来ないって、お前、そろそろいい加減に理解しろよ。」
「俺はな、お前が髪の毛伸ばして、ヒッピーで、クスリも滅茶苦茶やってて、リュウが居って、俺が居って、あの頃に、」
「勘弁してくれよ。あのさっき連れてきたヤツ、なんやねん?リュウに、」
「お前に何が分かるねん?あ?」
胸倉を捕まれた。睨むと、フッと離された。
「ヤバい、ヤバいな、すまん、しっと、すまん、」
「Cool Downメーン。お前、流石にウイスキー飲みすぎ。」
「俺ホンマな、家がな、」
「No!No!マイキー、これ以上話聞いて欲しいなら、金くれ。もう、ウンザリや、もうウンザリ。」
「分かった、いくら払えば良い?いくら払えば教えてくれる?」
「何を教えれば良い?解決策は提示してる。家がツラいなら、家を出ろ。サークルのヤツらがイヤなら、サークルを辞めろ。昔に戻りたいなら、タイムマシンを探せ。」
「なんやねん、聞いてくれや。」
「聞いてるやんけ、ひたすら、お前、俺は俺の話、一つも出来てないねんぞ。俺だってキツいねん。」
「何が?」
「マイキー、これ以上会話したいなら、金払え。お前とは暫く関わりたくない。一人にしてくれ。」
「分かった、払うわ、いくら?」
「1時間1万円。」
心痛むような、叫び出したくなるようなガキの頃からの話を永遠とされ続けた。金を貰ってるから、かろうじて冷静に聞いていられた。もし金を貰ってなけりゃ、心が掻き毟られ、気が狂っちまいそうな、虚言癖を疑っちまうぐらいにエグい話のオンパレードだった。
「1時間経った。まだ話す?」
1万円を手渡された。遂に大学の話まで辿り着き、リュウの話になった。
「Hey, Bro、あのな、リュウの昔の女と俺は寝た。だから俺はもう、リュウとは会いたくない。」
「お前もキツかったよな、あんなビッチと寝て、アイツはシンゴともヤッてたし、それから、」
「はい、金貰ってるから聞いてやるよ。でも俺からの意見も言わせろ。ヨツバちゃんをビッチ呼ばわりしてもいいのは、ヨツバちゃんと寝た男だけや。何も知らんクセに、勝手なこと抜かすな。」
「あんな女と、」
「マイキー、今は金貰ってるから好きに話せば良いけど、俺はお前のツレを貶さないんやから、俺が寝た女の悪口、普段は絶対に言うなよ。」
「この話、辞めるわ。すまん、しっと、もう俺は下ろさな一万円札が無い。」
「ほんなら、帰ろか。結論。親がキツいなら、金を貯めて家から出る以外に方法は無い。親が理解してくれるとか、そんなこと今までありましたか?今まで一度も無いことが今後起こることはない。後は、もうあの頃には絶対に戻れない。オッケー?以上。」
タクシーの後ろに自転車を乗っけるマイキーをぼんやりと眺めながら、俺はこの辺なら何処にホテヘルがあんのかを調べ始めた。
とにかく誰かに話を聞いて貰いたかった。
検事に話してみた。「あなたみたいな女性に暴力を振るうようなクズは、また同じことを繰り返すに決まってるんだ!」
医者に話してみた。「女の子殴って捕まったんですってね。どうしますか?クスリ増やしときますか?」
千葉の女に話してみた。銀行にお金が振り込まれてて、俺は新幹線に乗っていた。
アフターピル、新幹線代、毎日の外食代。金を出して貰い、俺は精子を出し続けた。Give and Take、サイテーの関係だ。
「恋人が出来たらずっと行きたかった店があるの。」
「良いよ、着いてくよ。」
その店が、あんまりにもハズれだったモンだから、二人で笑いながら、アパートの真正面にあるラブホテルに入った。
背中を抱き締めながら、いびきをかいてる太った女に突っ込んで、そのまんま出して、疲れ果てて電気も消さずに眠った。
「君はね、結局元カノを引き摺ってるだけなんだよ。君の悩みなんか、」
「うっせー、黙れ。」
「元カノ、元カノ、元カノ、元カノの話、元カノの話、元カノの話、そんなに好きなら会いに行けば?」
「もういい、話すだけ無駄やった。よし、寝よう。」
「ずーっと元カノ、元カノ、元カノ、しつこいんだよ。」
「そうじゃねぇって、しんどかったから話してみたかったんだよ。」
「その割に楽しそうに話すクセに、」
俺は女の顔面を思いっ切り殴りたくなる衝動を何とか抑えつけ、どうにか外に出てタバコを吸って無理矢理気を沈めた。それから暫く20分くらい、上手く声が出なくなった。
「俺って、上手い?」
「滅茶苦茶気持ちいいよ。」
「それは答えになってない。上手いと気持ちいいは全然違う。」
俺達はいつも話し合いながらセックスしてた。コイツは何百人もの男と寝てる。その中でなんとしても一番になりたい。
「君は、アタシのこと愛してる?」
「愛?お前、セックスに何求めてんの?」
「・・・やっぱり愛じゃない?誰もアタシなんて愛してくれない。」
「ソレはお前が太ってるから。痩せたら愛されるよ。後は、自分のこと粗末に扱わず、もっと品を持てよ。俺はお前のイイトコロ一杯知ってる。お前は、イイヤツ過ぎて疲れてんだよ。」
抱き締めて、
「セックスに何を求めてるか知らんけど、セックスはただのセックスや。」
って言った瞬間、女が泣き出した。俺はその泣いてるツラにぶちまけた。
「これ、ハンカチ。アタシね、セックス依存症治すのに、医者行ってみる。セックスはただのセックス、だもんね。」
「おう。なぁ、ほんまにハンカチだけでいいんかな?」
「仕方ないよ、急だったからね。」
「もやし、多めって言うたほうがええで。」
「そうなの?」
「俺は少なめ、この人多めで!後、俺のはニンニクとアブラ多めでお願いします!」
出てきたラーメンを前に、暫く茫然自失してる女を見ながら大笑いした。
「ねぇ、アタシこれ、無理だよ。」
「アハハハハハハッ、ハー、おもしれー。」
「良かった、元気出た?」
「出ないよ。無理矢理笑ってんの。わけわかんねーわ。実感ねーわ。つい最近まで、また飲みに行こうってハナシ、してたのに。」
一緒に手を繫ぎながら電車に乗って、去り際にキスした。
左手にマジックで、「声が出ません。」って書いて1週間くらい過ごした。
俺の嫌いなヤツが、俺のコトをじろじろ見て笑った。頭の横に手をくるくるして、パー。ふざけんなよ、俺がムカついて咳払いをすると、そいつも同じように真似した。こんなヤツが教師なんだもんな、笑えるよ。
俺は声が出るクスリを貰いに、信頼出来る医者を頼ることにした。
「ハルシオン120、デパス180、ソラナックス90、マイスリー60でお願いします。」
それから薬局をまわって、大量の咳止めシロップと咳止め錠剤、カフェイン錠、ウットなんかを買い漁って、俺はニコニコ顔でソラナックスをウイスキーで流した。
勿論、声はすんなりと出るようになった。
千葉の女のスマホの通知によく出てた変なアプリを突っ込んで、テキトーにプロフィールを埋めた。埋めたらすぐインターホンが鳴って、制服姿の女がドアの前に立ってた。
「よかった、生きてた。」
ゼリーだの、お弁当だの、山ほど入った袋を持った女子高生が泣きそうな顔で俺の方を見てる。抱き締めて、服を脱がせる。余りにも白くて、柔らかすぎる。全身を舐め合って、そのまんま生で突っ込んだ。
「アタシ今日、する気じゃなかったのに。」
「ねぇ、何歳?」
「15。」
俺はローリングストーンズのストレイキャットブルースを流してニヤつきながら、もう一回、若くて柔らかくてあったかいアレに突っ込んだ。
女が帰った後、俺はもうウンザリしきってて、気がつけば100錠くらい、白ワインと咳止めシロップで流して、ぶっ倒れてた。
睡眠薬のハルシオンと、目覚ましのカフェインを同時で突っ込むとどうなるか?スーパーマンになる。
授業中にも関わらず大音量で景観を損ねる場違いなベースソロを繰り出して、後輩の女の子にきゃー、カッコイイー!貰って、そのまんまベースを投げ捨ててトイレに向かった。
トイレの中でハルシオンとカフェインを飲み干し、全力ダッシュで教室のドアに向かって突進した。
ガン!! 俺はぶっ倒れた。何かが砕けるみたいな音がして、全身が痺れてきた。ヤベー、今俺、この壁突き抜けれるって思ってた、アハハ。
「だいじょうぶかぁぁぁぁ!!!」
岸田先生が、防音室のドアを開けて大声で叫んでる。
「気持ちいいんで、このまんまにしといて下さい。」
「えげつない音やったぞ。」
「ベースが?」
「違う!壁にぶつかる音や!死んだんちゃうか?って。」
流石に前日に100錠飲んで、今日もかれこれ30錠は飲んでるだけあって、俺はバス停の前でぶっ倒れて身動きが取れなくなった。10月の肌寒さに加えて雨まで降ってきやがった。ちくしょー、携帯の電源まで切れて、助けも呼べない。
薄らぼんやりしていく意識の中、隣を過ぎ去ってく人間達の冷たい目線。俺はどうしようもない負け犬みたいな気分だ。クスリに手を伸ばしたいが、指すら動かない。
「助けてくれ、」
小声で言ってみた。
「何あれ?気持ち悪い。」
って返事してくれた。
2時間くらい雨に打たれてると、ようやく知ってる女の事務員が来て、腕を支えられた瞬間、思わず抱きついてしまった。
「ごめんごめん、ごめんやで、寒くてさ。」
「取り敢えず、もうちょっとしたら救急車来るから。」
さっきまで無視してたクセに、野次馬が出来て、ちょっとした騒ぎになった。
「お前ら、見せモンちゃうぞコラ!」
「もう、怒っちゃダメ。」
「ごめんな、アイツらさっきまでガン無視キメ込んでたクセに。」
「どうされました?」
「栄養失調っす、栄養失調。ただの栄養失調。」
「点滴は?」
「大丈夫、大丈夫っす。取り敢えず、車椅子貸して貰えたら。」
フツウこの量飲んだら胃洗浄は確実だが、俺は慣れていた。初めて100錠飲んだときは、流石に呼吸が止まって4日間昏睡してたが、それでも胃洗浄だけは断固として拒否した。一ヶ月後に200錠飲んだときも、3日間昏睡してたが胃洗浄は拒否。その次に100錠飲んだときは、流石に強制入院寸前だったが、胃洗浄も入院も拒否していた。
だって、死にたいからクスリ飲んでんだぜ?胃洗浄なんかされちゃたまったもんじゃない。俺は決して、助かりたくない。
母親が迎えに来て、車椅子を押して貰って、ラーメン屋に入った。普通濃いめ多めの豚骨ラーメンなのに、デパスの味がした。なんとか半分くらい食うと少し元気が出てきて、俺は車椅子無しで歩き始めた。
「ヨシオくん呼んでるから。」
「最悪、最悪、最悪や。ふざけんなって。」
「電車乗るのしんどいかな思って、」
「歩いて帰った方がマシ。」
「ほら、言うてる間に来たわ。」
車に乗り込むと、母親が手を握り締めてきた。
「おかん、俺はな、今、女と寝まくってる。俺はな、草臥れてる。俺は、汚れてるわ。」
「そんなことない、」
「そんなことあるやろ!!金貰ってセックスしとんねん。」
「じゃかましいんじゃボケ!!」
「何じゃコラ?」俺は運転してるオッサンの座椅子を蹴り上げた。
「お前が心配でみんなわざわざ来てるんやろ!そのクセ女の話、女の話、お母さん可哀想やと思わんか?」
「お前ら、俺が何でパクられたか知ってるか?」
全員口を閉ざす中、母親が小っさい声でジブンに言い聞かせるように、
「お前は悪くないんや、お前は悪くない、お前は悪くない、」
指と指を重ね合わせて、上目遣いで、オンナの顔で、俺の目を覗き込む。俺は、この母親とはもう金輪際関わりたくない、と思った。
「お前ももっとな、話せよ色々と。」
「だから話そうとしとんのに、女の話、で遮ったからやろがえ。」
「どうしてん、今日は何があってん?」
「ありとあらゆるラリれるクスリ100錠突っ込んで、ぶっ倒れてんやわ。」
絶句。まるで何もなかったかのように唐突に、無理矢理世間話が始まった。
「お前はなぁ、人を見下してるところがあるぞ。俺はお前のことなら何でも分かるからなぁ。」
そうやって、テメーが一番人のコト見下してんのにいつまでも気がつかないバカ。
「お前は俺にソックリや。俺も昔は変わってる、ってよく言われてた。」
へぇ、そうかよ。俺は変わってなんか居ない。俺がフツウで、この世の中がオカシイだけの話だ。
お前らは、本質を覗かない。お前らは、本質から遠ざかる。真実なんてどうだっていい、リアルもフェイクもクソ喰らえ、俺はただ、正体を暴きたいだけだ。見下しても無いし、見上げても無い、そもそも興味が無い。
ブラックブレインのバッズのキャップの中に銀行の封筒が入ってるのを確認し、黙って財布から25000円を取り出して、ソラナックス4錠と一緒にヨージに手渡す。封筒を破ると、3って書かれたパケと、2って書かれたパケが出てきた。
ソラナックス4錠で、二人ゾンビみたいにクラックラになりながら街の中を肩組んで歩いた。
「なぁ、お前、カウントは治らんの?相変わらず。」
「無意識にしてるよ。例えば今、右肩2回叩いてからなぁ、って言うたやろ?左肩もなぁ、って言いながら2回叩いて欲しいんよな。」
ヨージが笑いながら左肩を2回叩いてくれる。例えば、横断歩道とかだと、左足で出て右足で終わらなければ一歩戻ってやり直して4回踏む、みたいな。後は返事で、「はいはい。」って言われると、あと2回はい、って言わせて4回にする、みたいな。もう2年近くもこんなのが続いていた。
「なんで4?」
「死を回避してるんやろうな。回数をカウントすることで、死から遠ざかってる。」
「気にならなくする方法は?」
返事をする代わりに、ホルモン屋に入って、ビールを頼んで、こっそりとヨージにソラナックスを手渡した。
「なぁ、ハヤシ、欲しいときは俺から買えよ。」
「草以外頼める?」
「罰ならなんとか、でも、ウィード以外辞めといた方が良いと思うわ。カウントとか、正気ちゃうで。俺もまぁ、割と凄いと思ってた。カナダの路上でヘロ突いて伸びてるヤツとか毎日見てたで、でもな、お前ほどのジャンキーを俺は、人生の中で見たことがない。」
ウチに帰って二人でタバコの先っちょを抜き取って作ったジョイントを回した。
俺は、それまで人と草を吸うのが嫌いだった。でも、ヨージはツレで、俺は物凄くリラックス出来た。二人でピザを焼いて食ったりしてると、こうやって楽しむのか、って吸い始めて6年で、ようやく知った気がした。
自分の一部分を粘膜の中にぶち込むコトは出来ても、お先真っ暗にまっしぐらに自分の人生を突っ込むことは出来ても、太った10歳も年上の女とキスするのは相変わらず吐き気がするモンだ。
「なんでこんなにも太れるわけ?」
「うーん、」
「取り敢えず、しゃぶって。」
「うん。」
黙々と俺のを吸ってる女を見ながら、俺は草をモクモクと吸った。
「掃除しといてね。」
「うん。」
「取り敢えず、コレ終わったらコーヒー買ってきて。」
「うん。」
「お前、本当に分かってる?」
「掃除、上手く出来るかな。掃除の本みたいなの何度も買って、それが片付けられなくてまたぐちゃぐちゃに。」
「まぁ、テキトーにやっといてよ。ほら、手コキでサボんな、咥えて。」
起きると、ほんの少しだけ部屋が掃除されていた。
「ごめんね、まだ終わってない。」
「・・・お前、本当に掃除出来ねーんだな。」
「うん、ごめんね。」
「いいよ、お前、アスペか?」
「なんかそうお医者さんには言われてる。」
こういうヤツがホンモノなんだな、って思った。私アスペだから、とか自分でイチイチ抜かす様なヤツらが、本当にアスペだった試しなんか一度も無い。
俺は8時間かけて掃除された畳半分くらいのスペースを見て、大笑いしながら頭を撫でた。
「お前、面白い。しばらくここに居ろ。」
起き上がって、30分くらい真面目にゴミ捨てや雑巾がけを済ませると、部屋はスグにピカピカになった。
「お前はこっち掃除して。」
人間何か一つは必ず取り柄がある。コイツは、こっちの掃除が天才的だった。俺はすぐに果てた。
「君のこと、アタシ好きかもしれない。」
「正気か?アスペ。まずは痩せろ。それから15歳若返れ。」
「君と居ると、アタシはアタシで居て良いんだ、って思う。」
「いや、ダメだな、働け。」
「アタシ、生まれてから1回も働いたことないよ。」
「普段何してんの?」
「白い壁見つめて、まだ終わんないかなぁ、まだ終わんないかなぁ、って。」
「帰れ。俺は俺のことなんか誰にも好きになって貰いたくない。」
「分かった、帰るね。」
気がつけば、もう3日も経っていた。
「この前来たばかりですよ?」
「来月忙しいんで、先に受け取りたいんです。」
「分かりました、クスリは前の量と同じで?」
「マイスリー減らして、代わりにハルシオンを。」
ジーパンに油絵の具ででっかく、「精神病」って描いて、学校に行った。岸田先生だけが反応してくれた。
「それは反則やわ、お前、おもろい。」
俺はニコッと笑いながらベースを弾いた。信じられない量のハルシオンとカフェイン錠で俺は完全に出来上がっていた。先生も完全に俺がクスリをやってるのは分かり切っていた。
イライラしてギラギラして、頭の中でシンバルがずっと鳴ってるみたいな感じで気が狂いそうになりながら西成に向かい、ワケの分からないフォーク野郎のライブに乗り込んでフリースタイルをカマしてから、岸和田に向かうともう、すっかり夜中になっていた。
俺は血走った病んだ目つきで岸和田駅のホーム周りを見渡した。真夜中で、すっかり静まり返ってるってのに、爆発しそうな目覚まし時計が頭の中でジャンジャン鳴り響き続けてる。
「なぁ、お前、パクられるって。」
「ヨージ、俺は狂ってない、俺は狂ってない、俺は」
「頼むから慎重になってくれ。いいか?次からは俺がハヤシの家に渡しに行く。お前、ちょっと休め。」
「黙れ、俺は狂ってない、俺は、俺は。」
便所でジョイントを作って、駅のホームの端っこで隠れて吸いながら、終電を待った。
ブロン80粒ぐらいをアネトン2本で流し、立て続けに草を吸い続けた。ハルシオンとカフェイン錠剤で狂った脳ミソを、上手い具合に静かにしてくれた。
気絶してしまいそうな、永遠に眠ってしまいそうな。目を瞑ると色んな夢が表れては立ち去った。
もうすぐピーク、ってとこで、ドアが開く音が鳴った。誰なのかは分からない。一人はフォーク野郎だが、他は一体誰なんだ?
「近所迷惑考えろよ。」
「すまんすまん、酒飲んでも良い?」
「殺すぞ。」
「まぁ、まぁ、デパスあげるから。」
俺は3シート全部を口の中に放り込んで、ジョイントを回してみんなで吸った。
起こされて、ぼんやりとぼやけながら名前も何も分からないヤツらと王将で飯を食ったが、何の味もしなかった。
一人で家に帰って、俺は叫び声を上げた。散らばった錠剤、なぜかあぶらぎったキャベツの破片、半分に減ってるアブサン、パケの中も半分。
その時、急に思った。あ、俺、壊れてるわ、って。
どう考えても200錠飲んで、次の日フツウに起きて、王将で幻覚見ながら飯食ってるなんて、正気の沙汰じゃない。
デブ女が部屋の中に入るなり、大笑いした。
「もう、むっちゃくちゃだね。」
「いいか?話聞け。俺は、クスリを金輪際辞める。咳止め、睡眠薬、カフェイン、抗不安薬、あとは酒も金輪際、一切飲まない。もうすぐとんでもない離脱症状が来る。いいか?ひたすらフェラし続けててくれ。あとはもう、何もしなくて良い。」
「うん、分かった。」
ジョイントを吸いながらフェラされてると、幻覚と体の気持ち悪さが少しだけマシになった。
そんな調子で3日間、草を吸い続けながら吸われ続けてると、体が少しずつフツウに戻ってきた。
太った女を帰らせた。シラフの空をぼーっと眺めてると、女子高生が家に来た。
「会いたかったから、学校休んで、」
「・・・脱いで。」
「生理だから。」
布団に引っ張り込んで、ゆっくりと脱がせて、入れた。布団に血がこびりついた。
俺は、ジョゼのサウンドトラックを流した。抱き締め合ってる裸の体に、毛布がこすれた。火照ったカラダが、冬の冷たい空気に冷やされてく。女が帰ってすぐに、俺はシンスケに電話をかけた。
「文化祭のエントリー、まだ間に合う?」
「なんとかするよ。やるの?今年も。」
「ドラムは、ヒビキくんで。」
「バンド名は?」
「出会い系サイト。これが俺のソロ、で、俺らのバンド名は、出会い系サイツにする。」
「酷いなぁ。」
「去年お前が名付けた、ザ・草、よりはマシ。」
デブ女が、俺の頬にビンタした。
「出して。」
「無理だよ俺、才能ないもん。」
「ごめんね、叩いちゃった。でも、君がパソコンの前でカチャカチャしてるとき、世界を作ってるように見えたもん。」
「じゃ、お前がコピーしろよ、全部。俺は知らねー。ほら、しゃぶって。」
「しゃぶるから、出して。前みたいに眼鏡にかけてもいいから、公募出そうよ。アタシがコピーするから。」
なんだ、世界を作る、って。
2.
「切符代。」
改札前で睨まれ、俺はケタケタ大笑いした。
「金持って来てないわ、悪いな、お前、出られへんなぁー?」
「・・・サイテー。」
女が1000円出してチャージして、改札から出てきた。
「ほんまに19?」
「ナツ、ほんまは16歳やから。変なことしんといて、警察行くから。」
「捕まったばっかやねんけどなぁ、また捕まるんか。」
「はぁ?きっしょ。」
「ほら、自転車後ろ乗れ。あのピンク色の。」
自転車の後ろにナツを乗せ、急いでケータイを見る。やべー、リハにはどう考えても間に合わねー。1発、なんとしてもこのオンナに1発ぶち込まなきゃ気が済まねえ。
「あー、おっぱい背中に当たってるぅ~もっとくっついて~。」
「声、でっか、きっしょ、」
部屋の中に入れて、俺は押し倒して抱き締めた。ナツも俺を抱き締めてきたから、キスをした。キスをしたら舌を入れてきたから脱がそうとした。
「辞めて、ホンマに、ホンマに辞めて。キスまで、な?辞めて、嫌、嫌や。」
「知らんがな。」
「警察言う。警察に言う。」
「勝手にしてくれー。お前のコト抱けるなら、別にパクられてもイイわ。」
上を脱がし、ブラを剥ぎ取り、乳首を舐めて、ジーパンの中にゆびを突っ込むと、しゃびっしゃびに濡れてる。俺はジーパンを脱がそうとする。ベルトが引っ掛かって上手く脱がせない。
「はい、残念でした。ここまででしたー。」
「ちゃうねん、なっちゃん。」
「ん?」
「なっちゃん、セックスとかもうそういうのいいわ、このベルト、どないして取るん?単純に。」
「これはな、こうして、」
「はい引っ掛かったー!バーカ!」
脚を思いっ切り固く締めて股を閉じながら、
「なっ、なっ、お願いやから、辞めて。」
「無理。諦めて、もう。」
「分かった、じゃあ、せめてゴムつけて!」
「萎えたから、1回しゃぶって。」
女の口元に持ってくと、これが、恐ろしいくらい強烈に気持ち良かった。
抵抗しなくなった柔らかい体にぶち込んで、腰を振る。痩せまくってて、人形みたいな体だ。
「早く終わらせて!お願い!早く終わらせて!」
「分かった分かった、急ぐ急ぐ。」
イッたような感じはあった。ひっこぬいてコンドームの中身を見ると、何もなかった。なんとなくそこで俺は辞めにした。
「今から俺、ライヴのリハがある。既にもう、遅刻や。」
「ナツ、この部屋で寝てる。帰ってくるまで待ってる。」
「あかん、見に来い。」
「何処で?」
「芸大の文化祭。」
「なぁ、なんでそんなに声大きいの?」
「えーっ?なんてぇーっ?俺のこと愛してるってぇー?」
「もう、はずいって、辞めて。」
ナツの体は良い匂いがする。独特の、粉っぽい甘い匂い。俺は電車の中で抱き締めて、髪の匂いを嗅いだ。
「はい!はい!警察言う、警察言う。」
「それ卑怯やわ。ほら、」
「ジュース?ありがと。」
「間接キス~!間接キス~!」
「ガキみたい。クソガキ。」
「オメーにだけは言われたくねーわ。」
駅から降りて、俺はナツにベースとテレビを手渡した。
「はい!みなさーん!この子、テレビ持ってる~。なんでテレビ?」
「もう、恥ずかしいから辞めて!!なぁ、このテレビ、何のために持ってんの?」
「ライヴで使う。ナツ、俺は今から集中するから黙っててくれ。ライヴ中、カメラ頼んだ。」
「うん、分かった。ナツ、ローディみたい。」
俺はバスの中でナツと手を繫ぎながら、遅刻の言い訳を考え始めた。
「取り敢えずマーシャルとJCに突っ込んで、ほんで、ベーアンにも繫ごか。」
「で、フルテン。ヤバいですよ。」
「すっげぇ量のエフェクター、流石。気分はマイブラのラブレス、って感じ。愛のないセックスって感じ。」
「了解っす、いきますよ。」
ドッギャアアァァーンって、脳の機能が止まるような爆音が朝っぱらから鳴り響いた。
「エグいわ、はー、草吸いてぇ。」
「吸ってないんですか?今日。」
「その代わりに、さっきまで女の体吸ってた。リハもういい、終わり。早く女に会いたい。」
俺は走ってナツの元へ行く。
「水と、なんか食い物買うからついてきて。荷物ごめんな、マジで集中したい。」
「何考えてんの。ライブのこと?」
「違う、お前のカラダのコト。」
「きっしょ。」
朝の10時、信じられないほどの爆音が芸大を包み込んだ。客なんて殆ど居なかったが、そんなことはどうでも良かった。俺は液晶の割れたテレビの電源を入れて、爆音を浴びながらひたすら15分間叫び続けた。
後ろの方で見てたヤツが、終わったあと拍手をくれた。カメラの電源を落としたナツが遅れて拍手した。
「あのギターのヤツ、凄いやろ。」
「うん、めっちゃくちゃかっこよかった。」
「でも、服装が童貞臭いやろ。」
「うん、それは凄い思った。」
「なっちゃん、Vansやん、俺も。」
「あ、ほんまや。」
俺は誰も居ないひんやりとしたところに移動して、なっちゃんに膝枕して貰って、二人でしばらく、ぼんやりと1時間くらい眠った。
「リハ行ってくるわ。」
「ん。」
「何?寂しい?早く帰ってきて欲しい?」
「早く帰ってきて欲しいけど、リハ、しっかり頑張って。」
ナツのセブンアップを少し飲んで、俺はリハ室に入った。
シンスケは、プロになるだろうから、二度とこんな遊びには誘えない。思いっ切り楽しんどけ、って、クロスロードでジャムる。
ドラムのヒビキくんは、授業中二人でバカみたいな爆音でジャムって、一緒に岸田先生を困らせてきた最高のドラマー。俺とヒビキくんはジャムることはあっても、会話をしたことは一度も無かった。何を考えてるのかこれっぽっちも分からない、宇宙人みたいなヤツだ。
10分ジャムった。これ以上にない、最高の瞬間だった。
「なぁ、もう本番面倒いよな。」
「うん。結局リハが一番。なぁ、あの子、誰?」
「今日の朝、セックスした子。」
「めっちゃ可愛いやん。」
「どうも。あの子は?俺が連絡先教えてもらった!って喜んでたら、ごめん、それ僕の彼女、って言ってた、」
「メンヘラ。」
「やっぱり。」
「最後やな。僕は毎年、この1回が楽しみやった。今日も、これだけのために文化祭来たし。」
「シンスケ、朝に俺がやったヤツ、見た?」
「見てないけど、デカすぎたせいで苦情入って、次のバンドからすごい音が小さくなってるって聞いたよ。」
外に出て俺はナツの元まで全速力で走った。ナツは、俺のジージャンを丸めて抱き締めて、匂いを嗅いでいた。
「なんしてんの?寂しかったん?」
俺はナツを抱き締めて、頭を撫でた。
「なんでもっと本気でせえへんの?なぁ、ナツ、ナツがたいせーのバンドライブハウスで見てたら、絶対追っかけなってる。」
「無理やねん、ナツ。これは1年に一度しか出来ひんから凄いねん。分かりやすく言うたら、イチゴのショートケーキみたいなバンド。」
「たいせー。たいせー、清志郎みたい。」
「ナツ、俺は清志郎じゃない、俺は俺や。」
「なんでもっと真面目に、」
「なぁ、ナツ、うっさい、俺は疲れてるねん、静かにしてくれ。」
「ごめんね、ごめん。コレからバイトで、ほんとはおうちまで送ってってあげたいんやけど。」
「一人にしてくれ。」
俺は、寂しかった。俺だって、本気でやりたかった。でも、シンスケはやりてーコトが決まってるし、去年までのドラムは、他のバンドで結構名前がある人だったんだ。ヒビキくん?ヒビキくんのことはドラムの音がヤバいってコトだけしか知らない。
遊びだからこそ、完璧な即興だからこそ、無茶苦茶で楽しかったんだ。真面目にやると、練習する度に良さが薄れていっちまう。
「なぁ、ナツ、明日仕事休みなんやけど。学校帰り、掃除しにいこっか。」
「明日は他の女がセックスしに来る。」
「今から来いよ。」
「15歳の子は?」
「俺はただ、お前に会いたいだけ。」
洗いたての制服から微かにするナツの匂いの元を入念に探していく。スムーズにコトが進んでく。昨日とは大違いだ。口に突っ込んで、髪の毛を引っ摑んで喉の奥まで差し込んで、唇に体を押し付ける。ナツが苦しそうな眼で俺を睨みながら、太ももを弱く叩いてるのを無視する。
解放してやってすぐ、思いっ切り抱き締めて、ダレてる唾液が粘ったのをお互いの舌に行き来させて、今度は俺の番。生え揃ってない毛を舐めながら、指で触る、指を入れる、シャバっとした液体が顔に勢いよく飛んでくる。
寝転ばせて、壊れそうなカラダに突っ込んで、壊れるまで腰を動かし、果てた。
寝転んでタバコを吸いながら、腕枕してると
「ナツ、喉の奥にされんの、大好き。みんなビビって、あんなにも完璧にしてくれへんの。」
「なぁナツ、セックスってこんな気持ち良かったっけ?」
「思った。なんか出たし。」
「なんか出てたな。」
「15歳の子、ホンマに来えへん?なぁ?」
「ドタキャンされたからな。」
「ドタキャンされたから、ナツのこと呼んだんや。別にそれでもいいけど。」
「違うよ、ナツ、付き合お。」
「えっ、本当?」
「何泣いてんねん。」
体中の液体を絞り尽くすぐらい愛し合って、二人で歌いながら天王寺を歩く。俺は時々ナツを抱き締め上げて、思いっ切り振り回したり。ナツがニコニコ笑ってる。ヤケに眩しすぎるくらい眩しい黄色い照明。
「ほんなら、ナツはJRやから。」
「改札までな、改札まで。」
「何してんの?改札こっち。」
「なっちゃん、何処の駅?」
「桃谷やけど、何してんの?」
俺は切符を買って、改札に突っ込んだ。
「ついてきてくれんの?」
「もう、夜やし。でも、多分、改札通らずにこのまんま阿倍野帰るわ。」
桃谷について、
「じゃあね。」
「うん、さみしいけど、じゃあ。」
改札に切符を通した。
「何してんの。」
駐輪場でキスして別れて、電車の中で詩、っていうかラブレターをひたすら書き続けた。
その詩の一節、「帰ると見せかけて家まで送ってくぜベイベー」が、ナツのLINEの一言になっていた。
「はい、脱がすのちょっと待って。」
ナツが鞄から何やらゴソゴソと取り出す。
「これ!学校で貰ってきました。はい!注目!見て!」
「なんやねん。」
「はい、いいですか?マーリーファーナーはー、この国で禁止されています!」
「そうやったそうやった、忘れてたわ。」
「あんな、フツウの女子高生は、彼氏がマリファナなんか吸ってたら嫌やねん。」
「マリファナ吸ってるヤツが彼氏な時点で、もうお前はフツウじゃないの。」
俺は笑いながらナツを抱き締めた。
「・・・ナツが毎日一緒居てあげられへんから、たいせーは寂しくてマリファナ吸うの?」
「睡眠薬辞めるため。」
ナツがガムテープを見つけ、したり顔で俺の部屋の壁に「マリファナはこの国では、」プリントを貼り付けた。
「大丈夫。文化祭の朝、ナツのことレイプしたときに全部吸い尽くしちゃって、今はもう無いよ。」
「ほんまに?あの時、ちょっとおかしかったもん。」
網タイツを脱がせる。いつもと色の違う白い肌は、薄いパンストのせいだった。俺はソレを少しずつ剥いでいき、脛の痣を一つずつ舐め始めた。
「これ、なんで痣あんの?オトコ?」
「ううん、ブヨに刺された。」
俺が枯れ果てるまで、ナツが満たされるまで、ひたすら俺達はヤッてヤッてヤリ続けた。
「また今日も掃除出来ひんかった。」
ナツに俺のTシャツとAdidasを穿かせて、俺はカオマンガイを皿に盛る。付け合わせは、オイスターソースと鶏ガラとごま油で作る中華風出汁巻と、ナツに作らせた叩きキュウリ。
セックスは上手なのに、ベタだよな、本当。壁に貼られたマリファナ禁止のポスターと、机にこれ見よがしに置かれたヘアピン。
浮気されると分かってても、精一杯の抵抗。可愛くてたまらない。こんなことされると、余計に浮気してやりたくなるし、余計にマリファナが吸いたくなるだけ。
でも、俺は救えないロリコンみたいだ。ナツから抜け出せない。ナツは、自分が可愛いってコトを理解しきってる。昨日の服装は、とても16歳だとは思えないくらいに群を抜いてシャレてた。
俺好みのショートカット、それからいつ何時もすっぴんのツラ。バイト前に電話でメイクしてる姿を見せてくれたことがあったが、信じらんないくらい可愛かった。なのに、なのにすっぴんでしか俺に会わないトコロ。
でも、ナツは、可愛いだけだった。隣に居る女は、余りにも過剰に美しすぎた。
余りにも極端に美しすぎると、俺は勃起出来ない。ゴッホの絵とか、海とか見ても立たないのと同じ。
本当の美しさってのはいつだって際立って、彫り込まれてる。
「呼んで良かった。美しすぎる。」
「どうもー。」
「ファンやったわ、そのタトゥー。完璧だよ、会えて良かった。」
「アタシもだよ。」
緊張で頭がおかしくなりそうになる。ツイッターで見つけた、信じらんねーくらいバツグンに好みの女が真横を歩いてる。キメッキメのナツとは違う、無造作に選んだ服を着て。
久しぶりに会う中学の頃の友達と寝る予定だったけど、ドタキャンしてまで会った甲斐があった。
ま、電話でレズビアンなのは確認済みだ。大体、こんな女に手を出そうとは流石の俺も思わない。布団の中、寝惚けた女に抱き締められて、俺は抱き締め返した。
そんだけ。
俺の部屋が余りに汚すぎて、わざわざ東京から出てきたのに、掃除してすぐに帰ってった。
「・・・部屋、キレイ。」
「あー、まぁな。女の子来て。ナツ?何もしてない、マジで何もしてない。」
「どんな子?また女子高生?」
「1つ年上の、フランス育ちの女の子。レズビアン。美しかった。ほんまに心の底から美しかったわ。」
「見せて、写真。うわ、これはキレイ!これは仕方ないわ。」
「やろ?実物はもっとやで。」
俺たちはもう、生でするようになっていた。
「はー、疲れたなぁ、休もうや。もっと疲れることするために。」
「今日はナシ!セックスばっかりやもん。セックスしかしてないもん。なぁ、また女の子見てる。」
「ナツが一番可愛いな。」
「知ってる。」
プリクラ撮って、びっくりドンキー。こんなの、一体何が面白いんだ?せめて本屋に行きたい、レコ屋に行きたい、クソ退屈だ。大体、5つも年下のヤツと共通の話題なんて作れるワケが無い。
フリースタイルラップのハナシすんだもんな。俺が聞いてるのはブッダブランドとかブラックムーンだ。全く会話が噛み合わない。
「こいつ知ってる?」
「あー、なんか、クソみたいなポエムツイート集、本で出してる。」
「そう、昔コイツに、会わない?って言われて。会いに行ったら、友達のお兄ちゃん。」
「へぇ、そんで?」
「で、したんやけど、こんな格好つけて恋愛ポエム書いてるクセに、早漏で、」
「あー、気分悪い、雲が落ちてきて押し潰されそうな気分や。」
「何ソレ、カッコイイ。」
「お前、イイ男に抱かれてるならまだしも、そんなクソみたいなヤツに抱かれてんなよ。」
そんなクソみてーなヤツが、クソみてーな本を出版し、俺はと言うと、公募に落ち続けてるんだもんな。
うちに帰るとすぐ電話。うんざりしてくる。しかも最近は、カメラ通話だ。相変わらず処分しても処分しても増え続けるヘアピン。
「ナツ、たいせーのコトもっと知りたい、聞きたい。教えて、何でも、聞かせて。」
俺は何も話したくなかったが、少しだけ掻い摘まんでパクられたこと、なんで睡眠薬を食ってるのか、なんかを話し始めた。
「・・・」
「・・・」
間があった。電車の中、俺は制服にこびりついた精液を眺めながら、あ、もう終わりか、って思った。
多分もう、連絡は来ないだろうし、貸してたジメサギのアルバムももう、返って来ないだろう。
俺は手ぶらでキングギドラを聞きながら、京都独特の寒空の下、女を待っていた。
3.
可愛い、美しい、と来たら次は?って思いながら、セブンイレブンの前でタバコをふかす。
ヤベー、死に神がこっちに歩いてくる。全身黒づくめで、髪の毛の一部だけが赤い。こんな髪型のヤツは、当時はコイツぐらいしか見たことがなかった。
「・・・」
「はじめまして。」
ジローッと、下から上まで見られる。
「なぁ、はじめまして。」
「・・・はじめまして。」
黙って後ろを着いていく。俺はコイツが男なのか、女なのか、はっきりと確証が持てない。
日が暮れてオレンジ色になった空の下、気の触れた二人が何も話さずに歩いていた。工事現場の後ろにあるアパートがソイツの住処だった。
「これ、合鍵。これ、タバコ。これ、今日の食費。」
「金はいいわ、まだ余裕ある。」
「ほんまに良いの?」
「うん、大丈夫、やから、」
俺はベッドに押し倒して、キスをした。ギョロッとした眼が俺を見据えた。俺は気にせず舌を入れようとした。とんでもない悪臭、強烈な悪臭だった。わかが歯を閉じた。
「・・・じゃあアタシ、タバコ吸ったら仕事行くから。」
奇妙なメイクだった。自分が病んでるコトを他人に見せつけるようなメイク。こんなメイクをしてるヤツは、この当時はコイツぐらいしか居なかった。
勿論、部屋の中にマイメロのぬいぐるみがあったりなんて、そんなクソみたいなコトは無い。
本棚にある、ピンク色と黒色の表紙の本に眼が行った。手に取ってみると、殆どエロ本みたいなBLだった。
その本棚の前に、熊のぬいぐるみ2つが手を繫いで座らされていた。
暖房で部屋の中がおどんでる。ジメジメした毛布から汗の匂いがする。机の上にはジャックダニエルと追い鰹つゆと醤油。服は全部真っ黒だし、液体も真っ黒ばっかりだな、って思う。
冷蔵庫を見てみるとにんにくのチューブが1本だけ入ってて、思わず俺は大笑いした。
「おかえり。」
「・・・ただいま。」
二人同時にタバコを吸い始め、わかが吸い終わるより前に灰皿に入れ、脱がし始めた。無言で、何の抵抗もしない、前戯ゼロの、ただの交尾。
「・・・」
「何?」
「・・・アハハ、なんや、大層な口説き文句やったなぁ?って。おはようとおやすみ、おかえりとただいまがしたいだけ、やったっけ?って。アホやわアタシも、アハハ、何が一日目はエッチしないでおこうねー、やねん、って。」
「・・・」
「アタシはなぁ、アタシは、アタシはレイプされたんじゃ。お前もやっぱり変わらんわ!」
泣きながら思いっ切り叩かれた。
「だってさ、お前こうでもせな喋らんやん。」
「・・・昔、」
「苦しみってのは人それぞれ違うからね」だとか、そんな程度で終わらせれるような話じゃないし、かと言って「何も返事出来ないけど、ちゃんと聞いてるからね。」みたいな言葉で終わらせたくはない。
「周りのみんなに、彼氏出来てって。アハハ、すっごいキツかった。彼氏と初めてのエッチしたー、って、優しくしてくれたー、って。まさか?本当のコトなんか、アタシはずっと処女のフリ、アハハ。」
「この家はいつから住んでんの。」
「17ん時に、親が離婚するって言うから、どっちに着きたい?って。どっちも嫌やったから。」
「カッコイイ。」
「どうも、そら、あたし頑張ってんもん。」
「わか、カッコイイ。」
「お前さ、店で働いてたやろ。」
「なんで分かるん?」
「お前のフェラは、プロ独特のフェラが染みついてる。」
「そ、年齢偽って。稼がせて貰いましたー。レイプされて、親が離婚して家飛び出て、もう、無茶苦茶なんですって言うたら、そら無茶苦茶やな。ほんな、本番禁止の店にしよか、って。店長いい人やった。」
「それで学費納めながら?・・・俺はヒトとしてお前に勝てないわ。肝、座りきってる。」
「ようするに、一人目の客がアタシの初めてのフェラになるわけ。最後までずっと来てくれてたわ。」
俺はゴムをつけてわかにぶち込んだ。
「お前、何でそんなアニメ声みたいな声?」
「言わんとって、」
可愛い可愛い可愛い声のギャップにやられて、俺は腰を振り倒し続けた。
なぁ、首締めて?腹殴って?話し飽きた苦労自慢の後にする予定調和のセックスなんか、ただのお遊びだ。
俺達は激しく魂と魂をぶつけ合って、擦りつけ合って、なすりつけ合って、削り合うようなファックをしてた。
性癖なんて元々存在が怪しかったモンは、「おしっこ?別に飲めるけど、朝は勘弁してな。」って言われた瞬間に、何処かに消し飛んで消えた。
買ったばかりのブコウスキーの短編集を何気なく、テキトーに開いた。
「アンタにラブストーリーは書けない」
って、サイコーにイカしたタイトルに俺は大笑いした。
「行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
俺は玄関まで見送り、部屋の中で寝そべった。なんて、なんてツイてるんだ。なんて、なんて最高なんだ。平和と書いたらピンフと読むのだ、って感じ。ピンプの暮らし。
左右非対称の歪んだツラも見れば見るほどに美しい。真っ白い肌、小っさいケツ、すらりと伸びる脚。わかの服は全部黒色で、パジャマ代わりのムエタイパンツだけが鮮やかな緑色をしていた。
「ただいま。」
「あ、先に言われた。おかえり。」
「買ってきた、食べよう。」
俺は、ピザまんを食ってから、セックスした。現実なんて見ずに、わかのカラダだけを見ていた。
さて、どれほどまでに逃げ続けても自分からは決して逃げられない、ってボブマーリーも言ってたとおり、余りにも行かなさ過ぎてる学校からは逃れられそうにない。
俺はビールで酔っ払いながらスタジオで先生を待った。
「俺はな、単位やれるわ。でもな、分かるやろ?お前、1、2、3・・・俺の授業ですら5回しか来てない。それにお前、前期なんか1回しか来てない。」
「診断書あっても無理っすかね。」
「学年主任に話してみろ、ついてったる。ま、無理やろな。確実に留年やろな。」
ベースの個人レッスンの授業で、この1年間俺は、ただの一度もベースを弾いてなかった。代わりに俺は、もっともっと大切なことを聞き、学んでいた。
「ハヤシ、コカインだけは辞めとけ。コカインだけはホンマに辞めるの苦労した。」
「手に入らないんすよね、コカイン。だから仕方なく、近くに眠剤あったから、」
「眠剤?そんなもんお前、最悪や。」
「もう辞めて、今は草だけっすけど。」
「あんな、お前じゃないのは分かってる。お前はそんなバレるようなことせん。でもな、見つかったんや、喫煙所でジョイントが。」
「マジっすか?」
「警察来てやな、今、大変なことなってる。でも、成分出なかったみたいや。お前、なんか知らんか?」
「それ多分、俺の手巻きタバコのフィルター、誰かがジョイントと間違えて通報してるだけっすよ。」
芸大の先生達は、こんな感じの筋金入りの”元”ジャンキーばっかりだった。
「ハヤシ、お前はアーティストやな。お前だけがこの大学で異質や。お前だけが群を抜いてる。」
「嬉しいっすね。」
「まぁ、死になや。」
「うーん、何回も死のうとしたんすけどね、余りにも死ねないんで、諦めましたわ。」
授業が終わり、俺は一番偉そうにしてるヤツのトコロに頭を下げに行った。
「お願いします!卒業させてください!!」
「うーん、出席日数、足りないなんてモンじゃないし。」
「診断書あるんすよ。右肩上部骨折2ヶ月、右肩下部骨折2ヶ月、左肩上部骨折2ヶ月、って3枚。」
「だって、去年も、一昨年も、同じところ骨折してるじゃん。」
「お願いします!!」
「分かった、分かった。じゃあ、何があっても一度も休まずに学校に来い。」
「熱があっても?」
「40度出てても、インフルエンザでも来い。したら、卒業させてあげる。」
5000円にしちゃかなりのハイグレード。ヨージが、「必ず俺から買え。いつだって俺が届けるし、儲けもナシ。」って言ってくれたのに、俺は優しさを感じた。多分、他から買えば他のモノにハマッちまうからだろう。
ヨージは未だに眠剤を辞められずに居た。俺達は日々の疲れを、月1の草会でぼんやり沈めた。
ギャーギャー大笑いするのなんてゴメンだ。俺達は、思い思いに瞑想したり、美味いモンを食ったり、ニーチェを読んだりして過ごしていた。
休みのクセに、なんでバスが運行されてんだ?俺は草でボケボケになってて、学校が休みってコトを完璧に忘れきっていた。
雨の中、音楽を聴きながら帰りのバスに乗り込むと、おい、マジかよ、
「プッシー!!!!」
「おう、ハヤシ。久しぶり。なんか、ずっと声かけずらくて。」
「ずっとラリってたからな。」
「土師ノ里ヘルハウス、もう引き払ったんだっけ。」
「そ。この前あの接骨院行ってみた帰りにヘルハウス寄ったら、もうフツウに別の家族が住んでたよ。」
二人でジョイントを巻いて回して、レズビアンに教えて貰ったトルティーヤを巻いて食った。
「お前がもし自殺したとしても、俺は笑うよ。俺は悲しまないコトにする。」
そう言われたのが本当に嬉しかった。
「インフルエンザ治った?」
「・・・彼氏出来た。」
「はぁ?帰るわ。」
「待って!彼氏には許可貰ってる、だからエッチしても良いから居って。」
「いやいや、」
「足掻かせてよ!!!!」
俺は思いっ切り殴られた。
「おかえり、ただいま、おはよう、おはよう、おやすみ、おやすみ、ってしたい!!」
「帰りたい。」
「なぁ、このまんま幸せになるの怖いねん!!!」
「じゃ、マリファナ吸わせろ。正気でヤッてられっかよ。」
「・・・」
「おい!!マリファナ吸わせろ、」
「・・・」
肩に手を置くと、
「ん?」
「おまえもしかして?」
「言ってなかった?左耳聞こえへんの。」
「なんで?」
「親にぶん殴られて鼓膜破れて。医者には階段から落ちたって言え、って。」
「取り敢えず、マリファナ吸わせろ。正気でヤッてられっか。後、飯奢れ。」
「タバコも買う。」
「上出来だ。」
「ただいま。」
「おかえり。なぁ、さっき書いたから読んでくれ。」
「・・・」
「なぁ、おもろい?」
「当たり前に、おもろいな。あたしが昔書いてた詩に似てるわ。」
「ただいま。」
「おかえり。なぁ、お前、口臭いで。」
「やっぱり?歯槽膿漏、気にしてんねんから言わんとって。」
「こっち来て、嗅がせて。お前のその匂い、俺、好き。」
「絶対無理。なぁ、アンタぶっ飛んでるやろ。」
「お前も目、据わってるで。」
「おはよう。」
「おはよう。」
「うちはな、足の先が冷たいねん。」
「うん。」
「うちは、足の先が冷たい、ほら。」
「ちょ、辞めろや。」
「アハハ、」
「立ってきた。」
「ん。」
「おやすみ。」
「おやすみ。」
「うちはな、足の先が冷たいねん。」
「うん。お前は、足の先が冷たいな。」
雪降って、タバコ吸って、手繫いで、寒くて、俺の白いコートの中にわかが黙って手を突っ込んだ。色んな話して、たっけー居酒屋奢らせて、ウチについてベランダ、枯れた観葉植物見ながらガンジャ吸ってると、やたらと感傷的な気分になってきた。
「アンタ、シャンプーちゃんと治して、って。」
「分かった、ごめん、分かったから。」
「大体何コレ、怖いわ。アタシの部屋に違法薬物。」
「なぁ、帰るわ。」
「・・・性病かも!!」
「お前以外と寝てない。」
「はぁ?アンタ、アンタは、」
「何?」
「アンタ、ムカつくねん。」
「やから、帰るって。」
「・・・最後の最後、思いっ切りセックスしような、って。しいひんねや。」
「あぁ、もういい。じゃあな。」
効き過ぎた草、過ぎ去った過去、通り過ぎた身体。視界が歪む。草のせいってよりは多分、涙のせいで。
俺は駅で電車を待ちながら、アプリをアンインストールした。
さっき便所で吸った草ですっかり出来上がってる。でっかいヤツがステージで、マイク持って、よく分からない機械を叩いてる。
俺は茫然自失で、呆けたように突っ立ってることしか出来なかった。
なんだアレ?アレは一体、なんなんだ?
プッシーのオススメ、Killer Bong。俺は家に帰ってすぐに、25万のリッケンバッカーを8万で売って、5万のMPC1000に変えた。残りの3万円は草と風俗代に消えた。
余りにも衝撃的すぎて、思わず熱出して、大晦日正月が台無しになっちまったぐらいだよ。
4.
「ハヤシさん、卒業すんすね。」
「ん、お前も進級出来そうか?」
堂々と原っぱで葉っぱをまわす。どうせ誰も気付かない。俺はこのトラって後輩が大好きだった。バスの中で目をトロンとさせながら、スーパーで買った鯖寿司を食うコイツが。ライターのガスを吸ってラリってるコイツが。コイツはいつも一人で居た。本当に風変わりでイカしてた。
トラと別れ、14ホールの床に寝そべりながらぼんやりと、クソつまらねー演奏を聴いていた。
あまりにもつまらない、ブックオフの280円コーナーに並ぶクラシックとか、スーパーのmidi音源とか、不動産屋とか焼肉屋の白人ジャズの方がまだよっぽど聞いていられた。退屈が過ぎて、俺はうっすらと眠っていた。
飛び起きた。ステージの上で飛び跳ねながら歌ってる女の子が、俺には天使に見えた。
たった1分間の持ち場で完全に圧倒されて、ステージまで走って行くと、女の子は先生に怒られていた。
「きちんと歌いなさい。」
「えー、ごめんなさーい。」
「あなたは、」
センスのねぇ、数年前にほんの僅かだけ売れて、消え去って、学校で先生なんかしちまってるようなクソが、退け、引っ込んでろ。俺は女の子の元に走った。
「ヤッバイ!!!感動した!!!!」
「でもさっき、先生に怒られちゃった。」
「気にすんな、気にすんな、先生より上手いねんから。嫉妬されてるだけ、嫉妬されてるだけ。」
「ふふ、褒められたの初めてかも。ありがとーございまーす。」
手ぇ振って、俺は追加の草も入れずに頭を抱え込んだ。コレが最後の授業だ。このまんま俺はあの子の名前も、あの子がどうやって笑うかも知らずに終わりってか?冗談じゃねー。俺は女の子の元に走って行った。
「バンドやってんの?」
「ううん、」
「なんで?もう既にプロ?」
「あはは、そんなわけないですよー。褒めてくれるのは先輩だけです。」
「じゃあ俺のバンド入ってよ。連絡先聞いて良い?」
俺はバンドなんてやってないし、MPCなんて、電源の入れ方すらロクに分からないで放ったらかしてるぐらいだ。最低の口説き文句だと思ったが仕方ない。こんなイイ女に出会うことは滅多に無い。
「何年生?」
「1年、でも、もう辞めるんです。」
「何で?」
手で、小さく丸を作って、「お金。」って、のんが小さく笑った。
「何が良い?」
「コンポタで。やった!いただきまーす。」
「一緒に帰んない?」
「先輩、もう授業無いんですか?」
「後残り一コマだけ。」
「じゃ、アタシ待ってますね。」
「いいの?いいの?じゃ、23の喫煙所で待ってて。」
元カノと同じ名前だが、見た目は正反対だった。元のんはベリーショート、のんは長い茶髪、ってな具合に。
最後の授業は岸田先生の授業だった。俺はロクにベースも弾かずに、携帯のインカメで髪の毛を整えたりしながらニヤニヤし続けていた。
「コラお前!何してんねん、ちゃんと弾けて!」
「先生、春が来ました。」
「今、冬や!」
「そうです、冬に春が来たんです。なぁ、髪の毛どう?おかしくない?」
「髪型より、頭おかしいわ!」
お前らは一体何故、この子の可愛さに気がつかないんだ?ドギツイメイクに爆発したエクステ。俺は一番可愛い瞬間を見続けたくて、夢中になって笑わせ続けていた。
「先輩、終電なくなっちゃった。アタシ、奈良だから。」
「友達とか居ないの?」
「うん、でも大丈夫。最悪野宿するし。」
「大丈夫ちゃうちゃう、こんな可愛い子が道端で寝てて大丈夫なワケ無い。」
「先輩も可愛いよ。」
「なぁ、おいでよ。」
駅から家まで歩く間、俺達は手を繫いでいた。
「なぁ、うちついたら草吸ってもいい?」
「草?」
「マリファナ。」
「勝手にすれば良いんじゃない?あたしだって、19なのに飲んでるし。」
部屋に着くなりポケットから取り出したジャニパイで一服して、俺はチューハイ飲んでるのんの太ももの上に寝そべっていた。
「はー、あたしの男って、こんなのばっか。」
「じゃ、甘えねーからさ、歌聞かせてよ。」
起き上がって、歌を聴いた。なんか、今流行りの外国の曲だった。俺は引き込まれた、持ってかれた、ぶっ飛んだ。胸を爪で抉られてるみたいな気分になって、俺は暫く呆然とした。
「拍手ありがとー。どう?」
「・・・やっぱ、スゲぇ。」
灯りを消して、二人で布団に入って、唇を重ねて、舌を入れて、体をまさぐろうと服の下に手を入れると、
「はい!ここまで!アタシ、処女なの。」
「はぁ?もうちょっとマシな嘘つけよ。」
「ほんと!ほんと!!ね、ダメ。」
「俺って魅力無い?」
「先輩、服装も、髪型も、ぜーんぶかっこいいって思ってたよ、声かけられたとき、ラッキーって。」
「じゃ、手でして。」
手を無理矢理引っ摑んで、俺のトコに持ってった。
「・・・やっぱいいわ。なんで嫌なのかだけ教えて。」
「パンツがね、死んでるから。」
「はぁ?」
「パンツが、死んでるから。」
「死んでるパンツ見せてよ。」
「死んでも嫌。」
「じゃあ何?明日俺がパンツ買ったら、出来んの。」
「後は明日、吸わないで居てくれたら。」
「急いで来てくれ。どっかに落とした。」
「それはヤバすぎるっす。急ぎます。」
早々に電話を切って、トラが息を切らせながら走ってきた。
「ハヤシさん、たとえば、もう絶対やってると思うっすけど、ポケットにあったりは?」
「ポケットなんか見飽きたわ。」
「ちょっと休憩しましょう。」
タバコを取り出して、火をつけようとして、気がついた。俺は笑いながら”タバコ”をトラにまわした。
「トラ、俺、ぶっ飛びすぎてるわ。」
「全然何処にも落として無いじゃないっすか。」
俺はぶっ飛びながら英語のテストを済ませた。コレでラスト、正真正銘のラストの授業。
「・・・ごめん、やっぱり吸っちゃった。」
「・・・もう、ダメなヒト。」
「こんなババアみたいな下着より死んでんの?昨日の。」
「うん、死んでる。本当に死んでる。」
「分かった、俺、スーパーの外で待ってるから。」
キスして、脱がせて、ババアみたいな下着を見てから、ゆっくりとあたためてあげた。フェラなんかする暇も無いくらいに俺が徹底的にリードして、撫でて、舐めて、濡らして、押し当てた。
「本当に大丈夫?」
「ん、怖い。」
俺はゆっくりと、ゆっくりと、ゆっくりと入れた。少しずつ、少しずつ、進んでいった。
「痛くない?」
「ちょっと、ほんのちょっとだけ。」
「大丈夫?少し動くな。」
思いっ切り抱き締められる。丁寧に言葉を交えながら、ゆっくりとまぐわっていった。
奥まで入り、一旦抜いて、ゴムをつけて突っ込んだ。
「痛くない?」
「大丈夫、でも、もうちょっとだけゆっくり。」
俺はゆっくり、ゆっくりと体を味わい、キョーレツな1発をカマした。ノックダウン。視界が白けててぼーっとするような、最高の1発だった。
「痛くない?」
「うん、大丈夫。アタシ、他にしたことないから分かんないけど、多分、たいせーはめっちゃくちゃ上手いと思う。」
「そうかな?」
「全然痛くなかったもん。」
「きもちかった?」
「・・・どうしよ、アタシ、淫乱になっちゃう。たいせいのせい、たいせいがセックスは気持ちいいってアタシに教えたせい。」
俺達はキスして、飽きることなくFuck、Fuck、Fuck。
2~3日もすると今度は俺がいじめられ始めた。俺が喘ぐ様を、このオンナはBL同人のネタにして、ネットに投稿しやがった。
永遠に続くような好きだった男のハナシ。
「あの人、童貞やから、処女は怖いって。」
俺は、昔の女が同じ名前だってコトを黙っていた。
「マリファナ辞めて偉いね、あー!!」
「何?」
「タバコ吸おうとしてる。タバコも辞めよ。」
「タバコだけは勘弁して。」
芸大近くの駐輪場で、滅茶苦茶デカいバイクに華奢な小さいカラダを乗せて、うさぎみたいなヘルメットを被ったのんを、俺はたまんなく寂しくなりながら手を振って見送った。
ガッサガサのエクステを捨てて、黒髪のショートに、妙ちくりんなロリータ服になってるところは許そう。でも、歌が余りにも下手クソになってるのはどうしても解せない。
ま、カラダがあればなんでもいいしどうだっていい。脱がせて突っ込んでると、段々気にならなくなってくる。相変わらず魔法の穴だ。終わった後に愛の言葉を囁きたくなっちまうような。
「結婚しよ。」
「無理。なんか、もっとダメなヒトやと思ってた。がっかり。やっぱ、アタシにはあの人しか居らんわ。」
「・・・ふーん、そっかぁ。連絡してみたら?」
「既に取ってるかもね。」
俺は苛立ちを押し隠して、笑顔で見送り、直ぐにアプリを再インストールした。「出会い系なんかで出会おうとするから、メンヘラばっかやねん。」ってよく言われるし、俺だってそう思うが、童貞に女を取られるくらいなら、メンヘラの方がまだマシだった。
「君は何見に来たの?」
「キラボン。」
「お、分かってるね。俺は九州から、オリーブオイル見にわざわざ来たの。」
人と話すのが億劫だ。クラブの暗がりでクラックラ、ふらっふらで踊り狂ってると、さっきまわしてやった男が話しかけてくる。
「みんな、怖がってるよ、君のこと。これ、噛みなよ。」
「アシッド?」
「ただのガム。匂いがヤバすぎるんだよ。」
俺は香水をふられた。
「オーイ!!君、ここに居たの。さっき、キラボンさんに紹介しといたよ、君のこと。」
目の前にキラボン。俺は睨み付けた。コイツは一体、なんなんだ?本当に人間なのかもかなり怪しい。俺は固まっちまって、一言も話しかけれない。
「君、いい目してるね。」
「・・・っす。」
無言で15分くらいが過ぎた。多分、キマり過ぎてるからそう感じるだけで、実際は1分も経ってない。俺は番号を呼ばれ、フードを取りに行き、そのまんま戻らなかった。
めんどくせー品の無いダサいヤツらに草をたかられ、俺は上手く引き離せない。
「そこそこ良い草っしょ。」
「まぁ、そこそこやな。」
乞食のクセして偉そうに、礼一つ無いんだから驚くよな。
クソみてーな男にイイ女がどんどん剥奪されていく。でも、そんなことはどうだっていい。さっき見たアレは一体、何なんだ?喫煙所で茫然自失、全くカラダが動かない。
目の前にライターを探してる女が居て、俺はポケットからライターを取り出し、
「あげる。」
「えっ、良いんですか?」
隣に座ってきた。
「何見に来たんですか?」
「・・・分かんない。」
そう言うしかなかった。目の前でキラボンが、俺の隣の女より遥かに可愛い、このクラブの中でダントツの女にベタベタ甘えてんだから。
田我流のゆれるが流れて、取り残された男だけで大合唱が始まった。
「猫みたいなビッチ、追い掛けるのに必死、」って部分だけ、みんな大声で叫んでた。勿論俺も。
それからみんな、別々の方向に帰って行った。
「いやいや、ヤラさんなら、風俗行きたいから金くれよ。」
「・・・いくら?」
「そうだね、君レベルの可愛いツラなら、指名しないとキツいわ。15000でいいよ。」
おめーが昔レイプされてようが俺にはどうだっていい。毟り取った金でデリヘルを呼んで、俺は突っ込んだ。
ヤタケソで、どうでもよくて、面倒臭くて、何も考えたくなくて、草吸っても逃げられなくて、どうにもならなくて、俺は終わりを求めていた。強烈な1発が欲しいだけ。もう、何もかも終わりにしちまうような。
5.
「今の、なんのキス。」
「ん?始まりのキス。」
服に手を伸ばす。いつも通りの作業。
「アタシ、したくない。」
「そっかぁ、俺はしたいわ。」
「ねぇ、するなら早くして。終わったら直ぐ帰るから。でも、あたし、お話ししたいな。」
「宗教勧誘か?レイプされた話か?元カレの話か?クスリ飲んでる話か?クスリ辞めろって話か?」
「そんな話しないよ。」
震えながら、意を決したように唐突に、
「どうするの。する?それともお話しする?」
「お話しする。」
抱き締められ、頭を撫でられた。フィッシュマンズのキングマスタージョージを鳴らして、寝転びながら二人で抱き合っていた。
開けた窓の外の空が青かった。ヒナが大声で歌い始めた。
「近所迷惑や。」
「音楽の方がヤバいよ。ライブハウスみたいだよ。」
ヒナがカメラで写真を撮り始めた。ゴミ箱の中で萎びたレタス、白ワインにぶら下げたおまもり。
俺達は何も話さなかった。
お風呂に湯を溜めて、髪の毛を洗って貰ってると、ヒナが唐突に湯船にカメラを投げた。
「お前、何してんの?」
「びっくりした?防水だよ。」
髪の毛を乾かしてもらって、気がつくと夜の9時になっていた。
「おばちゃーん、オススメは?」
「オススメはね、トンカツ味噌ラーメン。」
やっちまった。この店は絶対ハズレだ。
「何ソレ?」
「うちの主人が、ラーメン屋さんやる前がトンカツ屋で。」
「へー。他にオススメはー?」
ヒナがおばちゃんと喋りながら、俺の方を見てニヤニヤしてる。
「餃子!これがまた美味しいのよー。」
「そっかー。じゃ、あたしチャーハンで。」
「・・・俺、醤油ラーメン。」
「オススメは頼まないのね。」
「うん、聞いただけだから。」
「二人はカップル?」
「ううん!さっきね、アソコでナンパされて、ごはん食べませんかー!って。」
「・・・あら、」
「本当はね、出会い系サイトでしたー!あたしね、初めてだったの、出会い系サイトしてて人と会うの。」
「なぁ、ヒナ、黙れよ。」
「ねぇ、おばちゃーん、」
「なぁ、絡むなよ、」
「もーこれ、要らない。食べて良いよ。」
俺は、チャーハンと、不気味なぐらいに不味い醤油ラーメンを食い始めた。
「おばちゃーん、この、なんか、かまぼこみたいなヤツ、何?」
「それはねー、」
「やっぱりいい。あたし食べないから。」
俺は先に店を出て、タバコを吸い始めた。おかしなモンだよな、俺が全部食ってんのに、俺の方が先に外に出てるなんて。
シラフで、懐かしいアナウンスを聞きながらチン電に揺られていた。
家に着いた。相変わらず玄関の鍵はぶっ壊れたまんまだった。前に来たときから、ゴミまでそのまんまの俺の部屋に入った。
壁に書かれた落書き、「FUCK 不失者」「WAR INA BABYLON」開いた穴、鍵盤の壊れたピアノ、笑えてくる。
押し入れの中も変わってなくて、あの時のまんまで、俺は久しぶりに、久しぶりに泣いていた。
確かにあった。のんが居た痕跡が、そのまんま。
俺は、タバコをふかして、いつもと違う窓から、前の家が更地になってるのをぼんやりと眺めていた。
「おう、来てたんか。」
「荷物取りにな。」
「聞いてくれ、俺は精神病かもしれん。」
「やっと気ぃついた?ずっとやで。」
「なぁ、恋の病でも精神科受診してもいいんか?」
もう、話す気にもなれない。俺はこんな奴が親父で、情けない。
「今付き合ってる女が、他の男にプロポーズされた、って。俺もう不安で不安で、見捨てんとってくれー!って叫んで。」
「お前さぁ、息子に恋愛話なんかするか?フツウ。」
「友達居らんのや、飯奢るから話聞いてくれや。ほんでやな、」
「俺がのんとここで殆ど同棲してたときは、」
「そうや、その女の家転がり込んでたんや。その女がもう、最悪で。」
「その人とは別れて、で、今のヒトがそのプロポーズされてるって人か?」
「付き合ってる期間は被ってない!被ってないで!」
隠し方が、下手クソ過ぎんだよ。
俺はずっと、コイツに似てるって言われんのが嫌で嫌でたまらなかった。髪を伸ばしてるのは、コイツがハゲだからだし、服に気を使いまくってんのも、コイツがどうしようもなくダセーから。クスリキメてんのも、瞳孔が開いて、顔つきが変わるから。
「お前は、失敗作やわ。」
「自分の子供によく、そんなこと言えんな。俺のことはもう手遅れやから、妹だけでも、」
「俺にはどうしようもない。」
「まぁな、まぁな。」
「俺が付き合う女、みんな、能面みたいなツラになっていく。なんでやろな。」
俺は、女を笑わせてた。怒らせてた。悲しませてたし、楽しませた。そこだけは、親父と違った。
「お前の母親とはあれ、別れた後も、」
「そんな話、誰が聞きたい?殺すぞ。」
「そうか、そうやな、気持ち悪いわな。のんちゃんとはなんで別れてん?」
「・・・さぁな。親父、ラーメン食いに行こうぜ。」
ガキの頃は、親父が調べ上げてきたラーメン屋についてってたのに、今は俺が親父に美味いラーメン屋を教えてる。
「なぁ、これ、美味いわ。何ラーメン?」
「家系。俺のスープ飲んでみ。」
「うわっ、俺のと全然違うな。お前のは、濃いめ多めか。」
「玉ねぎ入れると美味い。」
「家系って、いっぱいあるんか。」
「ここは、工場系って俺は呼んでる。玉ねぎかウズラが入ってたら、大体工場スープ。色々あるよ、酒井製麺使ってるところはハズさんな。直参みたいな店が多い。でも俺は、まだ総本山の吉村家踏んで無いから、家系を語るわけには行かんねん。」
「なるほどな。俺多分、家系また行くわ。」
「家系好きなヤツと、天一好きなヤツと、二郎好きなヤツと、山岡家好きなヤツと別れるな。みんな、どれかにハマる。他の良さも認めてるけど、やっぱ俺は家系。」
「そうか。俺、もしかしたらその言うてる女と、再婚するかもしれん。」
「なんやった?別れてから、二人で行った京都の温泉一人で行って、号泣したって女と?」
「違う違う、他にプロポーズされてる女や。」
「もうええわ、親父。じゃあな、帰るわ。」
「もーーー、ウンザリや、ウンザリ、ヒナ、ピクニックしよう!」
「長居の植物園なら近いよ。」
「おにぎり作るから、弁当頼んだ。ウインナーと、ゆで卵!!ラップでケチャップきゅっと締めて持ってきて!」
俺は急いでおにぎりを作り、植物園の前でタバコを吸いながらヒナが来るのを待った。
おわりさ、もうおわりだよって、フィッシュマンズの佐藤慎治が歌ってて、俺は涙をこらえんのに必死になった。
しあわせ。もう、終わりでいいよ。寒空の下、でっかい切り株の上で、ランチョンマット敷いてる君に俺は惚れてる。
「きゃー!ほうれん草のおひたしまで!」
「そ、作ったの。」
「はい、おにぎり。」
二人で黙って、時々笑いながら、フィッシュマンズを聞きながら、一体いつぶりだろう?メシを食って味がするなんて。
ネオヤンキースホリデイを流す。晴れた日は、君を誘うのさ、君を連れ出すのさ、寝っ転がったりするのさ、紅茶を飲んだりするのさ、タバコを吸ったりするのさ、そう、つまらないのさ。
「抱き締めても良いですか。」
「良いですよ。」
「なぁ、おっぱい、これ、気持ちええわぁ。何カップ?」
「Cの75だよ。」
「75って何。そんな自信満々で言うようなサイズかよ。」
「Cの75が、日本で一番多いって言われてんの。」
「黙れ!Cの75!」
「うるさい!細巻き!」
「見たことないクセに。」
二人で笑いながら、イカれた君はベイベー、イカれた俺のベイベー。
「キスしてもいい?」
「うん、」
唇を重ねようと、顔を近づけると、
「おーい!!もうそろそろ閉館ですよー。」
二人で顔を見合わせた。
「邪魔されたな。」
誰も居ないの確認して、腕引っ張って、キスした。カラスに見られてて、二人で笑った。
「なぁ、帰りたくない。」
「あたしも。」
「海外行ったことある?」
「エジプト。」
「なんでエジプト?」
「ピラミッド!!あんな大きいの、どうやって作ったんだろう、って。見に行かなきゃ、って。」
「イカレてるな。」
「エジプトのバスのチケット、この前こっそり、たいせーの家の本に挟んできたよ。」
「なんで?」
「あたしのこと、忘れないように。いつかあの本を開いたときに、あたしのことを、思い出してくれるように。」
部屋に入るなり、暖房もつけずにベッドでキス、キス、キス、キスしてキスしてキスして、キスし続けてると、だんだん汗だくになってきた。
舌を入れて、歯の形状を1本1本思い出すように舐める、俺が全部の歯を入念に舐め尽くすと、次はヒナが同じことをする。
「入れたい、入れたい入れたい入れたい入れたい入れたい!!」
「あたし、」
「言わなくても分かってる。」
岡崎京子は暗すぎる、魚南キリコは臭すぎる、安野モヨコは上手すぎる。俺は、南Q太が大好きだった。さっき、本棚に日曜日なんて大嫌い、が飾られてるのを俺は見てしまっていた。
日曜日なんて大嫌いは、兄にレイプされる妹の話だ。
「お前、彼氏とセックスしたことある?」
「無い。全部・・・。あ、ごめん、電話。」
全部ってコトは、ま、そういうコトだ。なんでなんだ?同じようにレイプされてても、刻み込まれ抉られるように胸が締め付けられる時と、全く何一つ感じない時があるのは。
「えーっ、今からですか?うーん、今からって、終電も近いからあんまりお話し出来ないですよ。」
俺は、睨みながら机をバシバシ叩いた。
「あの、ごめんなさい、ちょっと友達が来てて。そろそろ切りますね。」
「オイ、ヒナ、バカ、こんな時間に誘ってくるような男んトコなんか、行くな。」
「先生とは、写真の話するだけだよ?」
キス、キス、あくまでキスがメインで、合間合間に会話をした。
「あたし、デリヘルで働こうかな。ね、もしあたしがデリヘルで働いたら、どうする?」
「指名して、指名して、指名し続けて、借金まみれになって、」
「もうすぐ卒業で、」
「19じゃなかったっけ。」
「短大なんだよ。ねぇ、アタシね、東京行くの。」
「だから、引っ越しの準備してんだ。」
コーデュロイの脚に、タイパンツ越しに擦すりつける。
「写真の修行するの。スタジオでアシスタントするんだよ。」
「俺、何も考えてないな。」
「ねぇ、あたし、怖いの。不安なの。ねぇ、東京ついてきてよ。」
「えー、マリファナ吸うぞ?」
「ご飯は全部あたしが作るし、お金足りなくなったら、いくらでも好きなだけ使ってよ。あたし、欲しい物なんか何もないから。」
「へー、それでマリファナ吸って良ければ天国だな。」
「ずっと家に居て良いよ、働かなくて良いよ、何にもしなくて良い、傍に居て欲しいの。」
「甘えんな。頑張るんやろ?」
「セックスだけは出来ないけど、女の子見つけて勝手にしてきても良いし、」
「マリファナは?」
「・・・あたし、この前ね、屋上呼び出されて、青春ってヤツ、ロマンチックだよね、お前のことは俺が守る、なんて言われちゃって。」
「オッケーしたの?」
「ううん、するわけない。だって、」
キスして、
「ねぇ?」
唾液が粘って、白く固まり始めて来て、「いい加減臭いな。」「いい加減臭いね。」二人で笑った。
気がつくと、もう、5時間もぶっ通しでキスし続けていた。
ヒナが歯を磨いて、俺はフリスクを囓って、また二人でキスし始めた。
「なぁ、俺、夢見るの怖いねん。」
「したら、明日起きたときまた夢の話聞いたげるから、今日はもう、お休み。」
天王寺を歩いてると、懺悔したい気持ちになってきた。誰かに話したい、いっつもいっつも聞かされてばっかりで、なぁ、俺だって言いたい、吐き出したいんだぜ?
俺はJudee Sillを聞きながら、教会を目指して下を向きながら歩いていた。教会の前に来た。閉まっていた。
なら、仕方ない。俺は開いてる方のドアを開けた。番号札を渡されて、便所でパイプを取り出して一服した。
「で、そいつが東京ついてきて、って。」
「不安なんだよ、ついてってあげなよ。」
「うーん、それで本当に良いのかな、って。荷造りすんの、途中で嫌になってきて。」
「優しいんだね。ちゃんと考えたげてるんだね。」
「俺も舐めたい。」
「クサイみたいだから、恥ずかしい。」
「可愛い。」
舐めると、本当に臭かった。俺は、臭い方が好きだ。2~3日洗ってないくらいがちょうど良い。愛してればの話だが。
「入れていい?」
「いいよ。お兄さんだけ、トクベツ。」
太ったカラダを抱き締めて、俺は中で果てた。ブコウスキーの、充電の合間に、って短編を思い出しながら一緒に風呂に入った。
3万円払って黒ギャルを呼んだ。憧れの黒ギャルだ。キャラメル色の肌がたまらなくエロい。顔面に唾を吐きかけてもらったりしてると、なんとか黒い肌を一部分だけ白く出来た。
黒ギャルが、ヒナが買ってくれた高いボディーソープで体を洗ってから、帰って行った。
Killer BongのMoscow Dubを聞きながら、髪についた乾いた唾の匂いを嗅いでると、泣きそうになってきた。サイテーのハッピーバースデーだった。
6.
朝の5時まで吸って、気絶したように眠って、起きたらどう考えても間に合わない時間だった。
慌てない慌てない一休み一休み。俺の卒業は確定してる。俺は一服して、外に出て、近鉄今川駅のトイレで一服して、阿部野橋で一服して、御堂筋線のトイレで一服、また一服、へろっへろになりながらなんばHatchに向かった。
「みんなぁ、どこー?」
「あー!やっと来た!」
「あら、上から見下しちゃって、まぁ。どうやって上がんの?」
「そこにあるよ、エレベーター。」
「何処?」
俺はぶっ飛びすぎてて、エレベーターが何処にあるのか全く分からない。
「もう、しっかりして。」
マユミちゃんが、隣で肩を支えながらエレベーターに乗せてくれた。ただそれだけのことで、今まで誤魔化して来たことが全部、瓦解した。卒業演奏会なんて、俺、出番が無いから、本当は休みたかった。
俺は、この子が好きだった。
のんと付き合ってるときからずーっと。
色んな女と寝たけど、好きだって思い込もうと何度も頑張ったけど、やっぱりどうしても無理だった。
でも、何にも言えなかった。
「ヒッピー、大丈夫か?」
「ハットリ、最近何聞いてる?俺はヒップホップ、ブッダブランドと、キングギドラ、」
「おお!クラシック!!J Dillaって分かる?」
「分かんねー。」
「聞いてみて、ドーナツってヤツ。ヒッピー絶対好きやから。」
「なぁ、ハットリ、俺達、4年前初めて話したとき、マイルスはDoo Bopの良さだけよー分からん、って言うたん、覚えてる?」
「言うてた、言うてた。」
「なんか、それ思い出して、あー、そっか、もう4年も経ったんやな、ってさ。」
「良さ、分かるモンなぁ、今は。」
喫煙所で盛大に追加して、アベちゃんとタッちゃんがサボり、ミナカミが留年で寂しそうにしてるタツヤに声をかけて、カレー食って、一服して、Kinjiで服買って、一服して、フレッシュネスバーガー食って、食い過ぎだって笑って、一服して、なんばHatchに帰った。
みんなヘラヘラ笑ってる中、俺だけがカメラを思いっ切り睨んで居た。
ここに居るヤツらの全員が、今後もう一度此処に立つことは無い。でもな、俺はいつか、満席の状態で、再び此処に立ってやるぜ、って意気込んで。
「ヒッピー!!ヒッピー!!お前なぁ、お前は、お前はなぁ、」
「なんすか、岸田先生。」
「心配なんじゃあ!!死ぬなよ!!お前みたいなおもろいヤツが、死んだらあかん。」
チューハイ片手に言われちゃ、世話無い。
「ドラッグストアカウボーイでさ、主人公がクスリ辞めて、真面目に働こうとするんだよ。なんか、そんな感じのライヴだったな、今日は。」
「・・・プッシー、卒業やわ。」
「ダブったよ。来年から、俺たちの偽装の診断書のせいで、診断書が禁止になるらしい。」
金龍でラーメン食って、ファミマ前でジョイントを回した。
もう、二度と会わないんだろうな。立ち去ろうとして、振り返ったプッシーに、
「楽しかったよ、マジで。ありがとうな。」
「こちらこそありがとう。」
ボロッボロ泣きながら、俺はただひたすら歩いた。黒いボックスの中、パネルを見てると、脚のキレイな女の子が入ってきた。
「あの子とか。」
俺はさっきカーテンの奥に消えてった女の子を指差した。番号札を手渡されて、便所でこっそり一服して、待った。
「あはっ、なんで泣いてるんですか。」
「人生最後のライヴだった。俺は二度と音楽をしない。出来ない。」
俺はエレベーターの中、背中をさすられながら部屋に向かった。
無我夢中でヤリまくった。恋人とする初めてのファックぐらい、丹念に、入念に、必死に、切実に。全然上手く出来なくて、自分の手で終わらせた。
「なぁ、気持ち良かった?」
「・・・気持ち良かったけど、なんか、なんかサリちゃん、お兄さんの全てをぶつけられてるって感じがしたな。」
フラフラしてたら、式場から追い出された。俺は一服、一服、一服に次ぐ一服で、吸ってるのがシラフみたいな状態になっていた。
入学式じゃ、スーツじゃないヤツなんて俺以外に居なかったクセに、卒業式は、何人かがジーパンの裾を引き摺っていた。
14号館ホールに集まって、在校生が作った思い出ビデオ流すんだってよ。
先生たちのビデオメッセージが終わり、いよいよスライドショー。俺、全然出て来ないな、って思ってると、唐突に、のんとヨツバちゃんが抱き締め合ってる写真が流れた。
俺は、必死に強がって誤魔化してた涙を滝のように流した。
のんは、俺が2年半付き合った女で、俺が生まれて初めて愛した女で、ヨツバちゃんは、俺がのんと付き合ってるときに浮気した女だった。
最後の最後まで、俺の写ったのは、ただの一枚すらも出て来なかった。
式が終わって、喫煙所で、もう既に吸うのが嫌になってきてるお馴染みに火をつける。
みんな誰かと話してる。
俺の隣には誰一人居ない。チカとリュウとフユミとシンゴは1年の時に辞めてるし、マイキーとジョンとミナカミは留年。
もうどれだけ吸っても現実は誤魔化せない。
「なぁ、ヒッピー、飛田どう?」
「俺、ゆっくりキスしたいからちょんの間はちょっと、」
「なんやソレ。なぁ、お前、どないすんのこれから?」
「先輩は正社員っしょ。」
「うん、26やで、俺もう。4年休学してるからな。」
「カナダでプッシャーするために。」
「それが、正社員なるねんもんな。」
「ソレより先輩。」
「忘れてないよ、はい。ありがとうな、助かったわ、偽装の診断書くれる病院に話し通してくれて。」
一万円を受け取った。
「いつでも飲みに誘ってくれ!」
多分、二度と連絡することは無いだろう。俺は個室でさらに草を足して、涙を拭いて、ホールの中に戻った。
「なぁ、マユミちゃん、アレやな。卒業やな。」
「そうやな、卒業やな。」
「あのさ、マユミちゃん。」
「ん?」
「いや、あの、4年間、ありがとうな、ずっと、ノート見せてくれたり、」
「うん。こちらこそありがとうヒッピー。」
やっぱり何も、何も言えなかった。
俺は、バスに乗って、喜志の駅のトイレで吸い込んだ。吐き出し損ねた言葉を飲み込んだ。涙の出過ぎで喉が渇いた。
俺はお似合いの日本橋のあの黒いBoxに向かって、フラッフラになりながら歩き続けた。
父親がコーヒー、母親がコーラ、俺がQooのスッキリ白ぶどうを頼んで、テーブルに座って待っていた。
「鍵、返してくれ。」
「何で?」
「再婚するからもう来るな。犬とか飼うから。」
「わかった、わかったわ。金の・・」
「金は、一円も出せません。来月携帯解約する。さ、話しよう。」
母親が立ち上がって、コーラを取りに行った。俺はQooのスッキリ白ぶどうを受け取るなり一口も飲まずにゴミ箱に放り投げた。
父親だけが一人で、コーヒーを飲んでいるのを後にして、一言も話さず、母親とマクドの外に出た。
「面接、落ち続けてるねん。髪の毛があかんのかな?」
「お母さんが、一ヶ月分だけならなんとかしたる。」
俺は、母親から8万円受け取った。
髪を切っても、何も変わらなかった。古着屋、古着屋、古着屋、レコード屋、個室ビデオ、ラブホテル、ラブホテル。俺は、落ちて落ちて、落ち続けて金も尽きた。
残り後僅かの草のカスを掻き集めて、吸いながら母親に電話した。
「なぁ、光熱費払えん。仕事が見つからん。」
「分かった。最後な、これっきりな。」
振り込まれたなけなしの10000円で、俺はデリヘルを呼んだ。待った。来た。
太った40過ぎた女に突っ込んで、空を見た。死にたいくらいにキレイだった。
久しぶりに散歩でもしてみるか、って、俺は最後の茎混じりの1発を吸って、FunkadelicのOne Nation Under a Grooveを聞きながら歩き出した。
桜が、信じられないほど、キレイで。俺は、久しぶりに少しだけ笑った。